リフレ派の中には国債を発行して日銀に買わせまくっても問題ないというヘリコプターマネー的な主張があるが、これが間違ってなければどんなにステキなことかと思うし、心情的には支持したいのだけど完全には支持しきれずにいる。
また、当然ながら今流行っているMMTには賛同できないし、かといって財政再建重視派のやり方が経済を良くするとも全く思っていない。
同じく、リフレ派の中には既に財政再建は終わったという主張もあるが、付利の問題がある以上、フリーランチではないと思うためと、少子高齢化の進展により、長期的には国民負担率の上昇と消費税増税は避けられないと思っている。
ただし、消費税を上げるならば労働者不足や最低賃金の賃上げ政策によって発生するであろうインフレを待つべしと考えている。
もちろん、外国人労働者を入れてしまったり、最低賃金をいつまでも上げなかったらこのインフレはいつになっても発生しない。
なお、リフレ政策に関する俺の考え方は以前、以下のシリーズに4回に分けて述べた。
長いのだが結構良く書けていると思うので興味ある方はお読みいただきたく思う。
それにしても不思議に思うのが、増税には色々な税金があれど、何故に消費税増税だけが猛烈に景気を冷やすのかということである。
厳密には導入時を含めて消費税の増税は過去に3度行われており、1989年のバブル全盛時における消費税導入が景気を冷やすようなことはなかったのだが、デフレ時に行われた1997年と2014年の増税は猛烈に景気を冷やした。
もちろん今もインフレになっていないし、世界経済が不安定な状況にあるので、おそらくは今秋に増税したら相当景気が悪くなるものと思われる。
官邸にもそれがわかっているが、それでいながらアベノミクスを始めて何年経ってもインフレにならないので葛藤は深いのだと思う。
消費税増税反対を叫ぶ理由には大きく三つあると思うが、一つ目には単に増税されることが嫌だという理由があり、二つ目には消費税は弱者に厳しいからだという理由がある。
所得税は労働者の所得に応じて累進課税で取るが、消費税は全体からまんべんなく定率で取るのでどうしても年金生活者や低所得者にとって厳しい税になってしまう。
そして最後の三つ目は消費税増税によって景気が悪くなることが心配であるという理由である。
もちろん反対派の学者は二つ目と三つ目の観点で強く消費税増税に反対しているし、俺が今年の消費税増税に消極的に反対するのもこの理由のためである。
消費税が景気を冷やす理由を端的に述べるならば、消費税には消費に対する罰金のような側面があるためストレートに消費を冷え込ませやすいからということになる。
また、有無を言わさない給与からの天引きと違って消費は自分でコントロールでき、かつ、日々細かく徴収されるので他の税よりも痛税感が強い。
しかし、サラリーマンが消費税増税にだけ反対するのだとすればそれは情弱ゆえという見方もできるのではないかと思う。
消費税以外の税の増税の余地について考えてみるが、まず、世界の法人税下げ競争から脱落すると国内外のグローバル企業から逃げられるため、法人税はそうそう上げられない。
同様にとまでは言わないが、既に一部の資産家がシンガポールなどに居所を移しているのをみると、仮に所得税+住民税を1983年時の93%にまで上げたとするならば多くの資産家が国外に生活拠点を移すようになることが考えられるので、富裕層への所得税+住民税の税率は今の55%が限界といったところだろう。
なお、シンガポールやマレーシアのように戦略的にVIPを集めている国はVIP向けのサービスを充実させているため、資産家とって生活しやすい環境になっていると聞く。
不労所得の譲渡所得および雑所得への課税や金融資産課税や相続税も海外への資産移転を巡って激しいバトルがあるとはいえ、同様の理由で難しいだろうと思うし、この種の税率が低い国が富裕層を呼び寄せて発展し、この種の税率が高い国からは富裕層が逃げ出していくというのは世界的な潮流である。
カルロス・ゴーン氏も税率の高いフランスではなく税率の低いオランダに納税をしていたわけである。
つまりグローバリゼーションによって国家は所得税と消費税以外の税を上げづらくなってしまっているのである。
ピケティ先生が嘆く気持ちも良くわかる。
前置きが長くなったが、もし消費税増税をしないのであれば、国債発行でしのぐか、所得税にメスを入れるかということになるが、日本の社会システムには第二の徴税システムが用意されている。
多くの人がわかっていることなのだが、国は税率を上げない代わりにステルス的に社会保険料を増やしたり、これまたステルス的に会社負担分を増やしたりすることによって徴税を増やしている。
実際は税と変わらないのに社会保険料と呼んでいるところが実に巧妙である。
なので、たまに官公庁の資料に「社会保険料(税)」と本音を書いていることもある。
もちろん、社会保険料率は決められた手続きを経て増やされるのだが、その手続きには国会による立法が必要とされない。
消費税を上げない代わりにサラリーマンが狙い撃ちにされ、ステルス的に彼らの手取りが減らされているのだが、この減少分は当然ながら消費税よりも大きな額になるものと思われる。
それなのにサラリーマンは消費税増税には身構え、生活防衛もするが、給与天引きの増額に関しては諦め、社民勢力の退潮によって団結もできず、生活防衛もしないというかできない状況にある。
自身の多忙と源泉徴収システムが生み出す無力感という理由により、多くのサラリーマンはこういったことについて深く考えないまま年を重ねていくわけだが、本来は最も頭の良い層である彼らがこういったことについて考えることにリソースを割くとかなりやっかいなことになるので、サラリーマンには「愚民」のままで団結せずにいてくれたほうが助かるという国家の意思が源泉徴収制度に込められているのだと思う。
もちろん、「確定申告という面倒なことをせずに仕事をがんばってね!」という優しさもあるのだと思うのだけど…。
ところで、サラリーマン以外の人が払う国民年金は格安でも国民健康保険は相当高いし、第三者被保険者制度によるタダ乗りはサラリーマンの配偶者だけの貴族的特権なので、サラリーマンだけがバカをみているというわけでもない。
しかし、デービッド・アトキンソン氏が「日本社会は女性に任されている仕事の付加価値が他国より著しく低い。これが日本低迷の最大の原因である。」「日本社会は女性にかけるプレッシャーが弱い。女性ももっと国に貢献すべき。」と指摘している通り、国は徐々に専業主婦やパート主婦に本気で働かせようという圧力をかけ始めたため、遠くない未来に第三者被保険者制度にメスを入れそうな動きになってきているし、また、パート労働者への厚生年金加入圧力も強める一方だが、これに対して有権者の専業主婦やパート主婦を抱える家庭がどういう行動で防衛に走るのかというのは大変気になるところである。
もちろん、創価学会の婦人部の奮闘に期待するだけではこの流れは変わらないだろうなと思う。