21年ぶりにベトナムへ
俺が前にベトナムを訪問したのは21年前、1998年の夏のことだった。
なお、前回訪問したのは南部のサイゴン(ホーチミン)周辺と北部のハノイであり、今回訪問したのは中部のホイアン・ダナン・フエである。
世界経済のネタ帳を参照する限り、1998年のドルベースでのベトナムの一人当たり名目GDPは361ドルで、2019年の予測値は2,786ドルとなっており、7.7倍も増えていることになる。
その間、中国は8倍、アメリカは2倍に増え、日本のみ全く変わっていない。
しかし、2019年時点での一人当たりの名目GDP予測値は、アメリカ62,606ドル、日本41,021ドル、中国10,153ドル、ベトナム2,786ドルとまだ圧倒的な差がある。
フィリピンより工業インフラの整備をがんばっているため、いずれは逆転するのではないかと思うもののフィリピンの3,280ドルやラオスの2,932ドル以下ですらある。
一人当たり購買力平価GDPの2019年予測値で見ても、アメリカ62,606ドル、日本45,565ドル、中国19,520ドル、ベトナム8,063ドルとなっている。
名目GDPと購買力平価GDPの差はそのまま物価の安さに直結するわけだが、この数値からベトナムの物価が相当安いことを知ることができる。
毎回のことではあるが、俺が一人当たりの名目GDPと一人当たりの購買力平価GDPの2つの指標を強く気にして旅をするのは、これらの数値がその国の生活水準や物価水準だけではなく、公衆道徳や衛生観念、いや、悪意のある単語を用いるならば「民度」というものに大きな影響を及ぼしているからである。
この数値と乖離して民度が高かったり低かったりする国にはまだ出会っていないと言って良いかもしれない。
本当のことを言うと、所得が長期に渡って横ばいにあっても年々民度が上がり続け、かつ、北欧諸国やスイスと並んで世界最高峰の民度を誇る国が世界に1ヵ国だけあるのだが、それは言わずもがな我が日本国である。
運の力で富を手にした中東の資源国などを訪問していないので断言はできないのだけど、民度・衛生と所得は見事なほどの正比例の関係にあると俺は感じている。
しいて日本以外で正比例しない例を挙げると、華人が住む地域における食べ物を扱う市場の臭いの強烈さは台湾でも香港でもシンガポールでもハワイでもなくならないというマイナスの面での特徴が目につくぐらいで、逆に所得が低いのにゴミのポイ捨てを一切しないだとか、所得が低いのに交通マナーや整列マナーがきちんとしているというような国にはまだ出会っていない。
かくして、以前のベトナムは公衆道徳なんぞあったものではない国ではあったが、一人当たり名目GDPがまだ2,786ドルであるとはいえ、前回の訪問から7.7倍にも膨れ上がっているのだからその辺はどうなっているのだろうかと楽しみにして訪問した。
実際、外で耳にするベトナムのイメージは、「真面目」「手先が器用」「副業をやっている人が多くて勤勉」「共産国でなかったならば…」「戦争でアメリカに勝った偉大な国だから…」などなどポジティブな意見ばかりである。
また、東南アジア内でも貧しいほうの国でありながらも日本や朝鮮と同じように漢字文化圏であるという親近感からか、日本人や朝鮮人や中国人のように勤勉に違いなく、それでいながら中国人のようには押しが強くなさそうなどと思ってしまいがちである。
なお、以下は今回の旅行の写真である。
今回のベトナム訪問で抱いた雑感
旅行の詳細については写真を参照することにしていただき、毎度のごとく、文章では現地で得られた雑感を述べていく。
先に「どうなっているのだろうかと楽しみにして訪問した」と述べたが、ベトナムという国に対するそこはかとない期待は見事に裏切られ、やはりGDP3,000ドルレベルのそれだった。
「やっぱカンボジアやモロッコあたりと変わらんのね…」という印象である。
GDPが7.7倍増えて感じた変化
全体としては数値の増加ほどには変わったように感じなかったが、前回と今回とで訪問地が違うので大雑把なことしか述べられない。
以前は車はほとんど見かけなかったが、やはり車の台数は圧倒的に増えた。
また、基本的に2人~4人が乗っているのがデフォルトであったバイクに乗っている人数が減っていることも確認したが、まだ4人が乗っているバイクがなくなったわけではなかった。
自動車はトヨタを中心とする日本車が多めで、バイクはほとんどがホンダ製だった。
他の国と違ってバイクから自動車へのシフトが進まない印象を受けたが、自動車に対する税金が相当高いらしく日本の2倍程度の取得価格がかかるようで、一人当たりのGDPが日本の14分の1以下でさらに取得に2倍の費用かかると言われれば、おいそれとは車など持てるはずがないと思う。
サイゴンやハノイの渋滞状況はわからないが、ダナンの交通渋滞がそうでもないように見えたのはおそらくは自動車より輸送効率の高いバイクが多いからであり、もし他の東南アジア諸国のように自動車が増えてしまったならば、他の東南アジア諸国のように渋滞に苦しめられると思うのでこれは悪くない施策かもしれないとは思った。
しかし、発展途上国からタイやメキシコのような中進国になっていくためには軽工業主体から自動車生産などの工業に発展させていくことが非常に重要で、そういう意味においてはずっとこのままでも良くないのだろうとも思った。
排気ガスのことを考えなければであるが、南国の風土にバイクって合うよなとはいつも思う。
公共意識と衛生観念
所得が激増しても公共意識はあまりにも低すぎるままであった。
道路上へのゴミのポイ捨ての酷さは道をゴミ箱だと考えているとしか思えないレベルで、街を走っていると心底がっかりする。
食堂の床の汚さも中国よりも上でカンボジアと同等程度だと思うが、これは完全に床がゴミ捨て場になっているためである。
当然ながら、机の上の汚さも相当なもので、これを文化を認めるという考え方もあるのかもしれないが、個人的には衛生観念に疑念を持ってしまう。
子供に路上で用便させる文化も北に位置する隣国と同じである。
なお、世界各地でプラスチック製のストローを規制する動きが起こるなど、プラスチックのゴミの海洋排出の問題が世界中で大きく取り上げられているが、この観点で大切なのはコントロールできていないプラスチックのゴミがどの程度あるかということであり、これについて調べると中国と東南アジアの酷さが際立っていることがわかる。
下にリンクを貼ったサイトにおいて、コントロールできていないゴミの総量を人口で割ると、ベトナムは世界ワーストクラスにあることを読み取ることができる。
もちろん、アメリカや日本など、中国や東南アジアにプラスチックのゴミを輸出し続けてきた国の責任は重大であるが、それにしてもここをどうにかしないといくらストローを規制しても無意味に近いとすらいえるのではなかろうかと思う。
ベトナム人の振る舞いを見ている限り、「彼らは何も考えずに川にペットボトルを投げ入れているに違いない」と想像せずにいられないし、いくらストローを紙にしてもカップや蓋がプラスチックだったら意味をなさないだろうと思う。
あと、余談だが、日本はコントロールできているプラスチックゴミが多いという建前になっているものの、そのほとんどはサーマル・リサイクルによるエネルギー回収という国際的にはリサイクルとみなされない処理方法を取っている。
要は燃やしているだけであり、本当の意味でのリサイクルはほとんどされておらず、仕分けするだけバカらしい状況ともいえるのである。
「地球環境を次世代に引き継いでいく活動」「エコ活」と言って地球環境にやさしい会社というイメージを強く打ち出しているとある飲料メーカーの意識は高いのかもしれないが、総合的に見るととてもエコと呼べたものではないのではないかと、非常時以外は水筒を用いている俺としては思ってしまう。
交通マナー
交通マナーはいくらなんでもヤバすぎというレベルであった。
クラクションが酷いだとか、なかなか横断できないというのは発展途上国にありがちな現象だが、以下のようにちょっと他の国ではあまり見かけないような事例を多々見かけた。
- 車は傍若無人に走り、バイクは車には遠慮するが、歩行者に対してはガチで轢く勢いで突入してくる弱肉強食の修羅の国である。
- 横断歩道を渡ろうとしようものなら逆に加速して阻止してくる。
- このように道路の横断にかなりの危険が伴うのだが、信号はかなり少ない。
- 日本でも自転車が路肩を逆走していることがあるが、ここではバイクが路肩を通常のスピードで逆走してくる。
- バイクが我が物顔で歩道を走り、歩行者に対してクラクションを鳴らしながら突入してくる。
- バイクの運転者は通話しながら、後ろ座席の人はスマホ操作を操作しながら乗っていることが多く、4人乗りをしていてもスマホを操作している者がいることすらある。
- もちろん危険極まりないなか、スマホを見ながら歩いている不用意な歩行者は少ない。
- バイク移動が移動の基本なのか、そもそも歩行者や自転車に乗っている人がほとんどいない。
- そのためなのか歩道が完全にバイク置き場と化しており、かなり歩きづらい。
- タクシー・バイクタクシー以外の公共交通機関がほぼない。
- 街中を歩く老人を驚くほど見かけなかったが、これでは道路を歩いて移動できないからのではないかと思った。
交通事故死者数は2018年のデータで、日本は人3,532人、ベトナムは8,125人となっている。
なお、中国のデータはあの国らしく非公表のようで、インドは2017年のデータで146,377人となっていて、ベトナムの人口はインドの14分の1なのでインドよりは若干マシというレベルかと思われる。
しかしながら運転の危険さに対して意外と死者が少ないという感想すら抱くわけだが、おそらくそれぞれのドライバーが相当注意して運転しているからであろう、また、歩行者が相当気をつけているからであろうと、彼らの曲芸のようなチキンレースを見て想像するのである。
なお、日本は車とバイクに関しては罰則があるのでそれなりにきちんと運転しているが、日本の自転車と歩行者のマナーの悪さはベトナムの車とバイクと同程度かと思う。
しかも、己の身を守ることに全力を注いでいるベトナムの歩行者と違って、日本の歩行者は自分の身の安全を自分で守ることを放棄しているのか、スマホを見ながら歩くことに必死な人が多い。
縦横無尽に繰り広げられるチキンレース
気候に関して思ったこと
この時期のダナンはそれなりに暑いものの外を歩いて苦痛に感じるほどではない。
夜はとても過ごしやすく、また、時期的に蚊が出なかったのも良かった。
しかしながら、東南アジアの人ってホントに外を歩かないよなと思う。
食に感じて思ったこと
ベトナム料理は日本でもかなり食べられるし、実際に食べているので現地でも特段の驚きはなかったが、やはり価格の安さから来るコスパの高さは特筆すべきものがある。
舌の記憶が間違っていなければ、バインミーはサイゴンのほうが美味しかったかもしれないという気がした。
外食で一皿あたりの量が少ないのはタイあたりと同じで、香草をたくさん食べるところも含めそのおかげで人々がフィリピンのように太っていないのだろうと思う。
あと、南国に行くとマンゴーを食べまくるのは毎度同じである。
意外にプラスに感じた点
貧富の差は広がっているはずだが、物乞いを全く見かけなかった。
また、都市内や都市間を移動していても酷いあばら家は見かけなかった。
社会主義国だからなのかどうかはわからないが、このことは個人的には驚くべきことであった。
目立つ金持ちらしき人物も見かけなかったように思うが、行動エリアが違うだけなのかもしれない。
それと、街を歩きながら治安は良いのではないかという所感を持った。
イノベーションによる現地のイノベーション
発展途上国であれ、ほぼ全員がスマートフォンを所持している今日、旅人もイノベーションの恩恵にあずかることができる。
まず、東南アジア版のUBERであるGrabの便利さが尋常ではない。
決済は全てGrabを通じてクレジットカードで行うのでドライバーとの清算の必要がなく、乗る前に行き先を入力するのだが、それによって乗る前に料金が確定するようになっており、その額で承知したドライバーが早い者勝ちで引き受けることになっている。
路上で待機している車がやたらと多いためか、アプリで呼ぶと大抵は1分程度で来てくれ、当然ながらベトナムなのでおそろしく運賃が安い。
また、現地向けの食堂は当然そうではないが、ホテルや外国人向けのレストランなど、評価経済のメカニズムが働いている店でのサービスがすこぶる良い。
ベトナムにはチップ制度はないということになっているものの、タクシーやマッサージ店ではチップを渡さないわけにはいかないが、他の場所ではチップを渡すという余計な習慣がないのも心地良い。
その代わりにGrabのドライバーには5つ星の評価をお願いされ、レストランの店員からはトリップアドバイザーなどにレビューを書いといてくれないかとお願いされることがあり、評価経済のパワーを思い知る。
あと、特筆すべきなのは Google翻訳の力である。
このおかげでベトナム語しか話せないドライバーが運転するタクシーを1日チャーターしても必要最低限のコミュニケーションに不足しなかった。
安いSIMカードの存在を含め、まさにイノベーションの恩恵である。
韓国の影響
ベトナム戦争以来の影響なのか、韓国のダナンへの進出ぶりが目立っていた。
アジアの街における看板の類では日本語や中国語と併記されるかたちで韓国語が記されていることがあるが、ダナンでは韓国語のみの表記のことが多かった。
それだけ韓国企業や韓国からの観光客がダナンに押し寄せているのだろう。
見かけた観光客に関しても圧倒的に韓国人が多く、直行便も成田からはベトナム航空1社しか就航していないのに対し、仁川からは9社が就航している。
我が家も大韓航空で仁川経由でダナンに飛んだ。
その他の雑感
北部・中部・南部を合わせて見てもホイアンが圧倒的な観光スポットだと断言する。
公衆道徳だとか衛生観念だとか交通マナーだとかアジアの臭いが気になるという人はホイアンのみ、もしくはホイアンとダナンの閉鎖型リゾートのみを旅行することを勧めたい。
フエは興味があればといったところだが、ほとんど中国風の都である。
ダナンのビーチは悪いとは言わないが、ベトナムの公衆道徳事情などにより、リゾート感は今一つ得られず、そういう意味では残念であるが、発展途上のリゾートなので将来には期待したい。
社会主義国なためか、タイのようにナイトライフ面におけるぶっ飛んだ感じも全くない。
また、今回は閉鎖型のリゾートホテルに行っていないのでその感想については言及できない。
しかし、そのようなホテルに宿泊している客の多くは韓国人や中国人だというが、おそらくはハワイやグアムより廉価だから行くという感じだと思われるので、推して知るべしなのかもしれない。
庶民の娯楽としては、カラオケとビリヤードの店をとにかく多く見かけた。
マッサージの価格は1時間で1,000円~と意外なことに他の東南アジア諸国より若干高めだったがどこも腕は良かった。
マッサージ師がマッサージの途中に私用電話に出るのを見たのは俺の記憶ではベトナムだけだと思うが、複数のマッサージ師がそうだったけれど、どれもごく短時間だったので気にはならなかった。
旅費
令和スタートの10連休のゴールデンウィークだったが、うちのご主人が上手く手配してくれたおかげで、何もかも含めて二人で25万円弱に収まった。
【2019年10月1日追記】
2019年9月に訪問したウズベキスタンの街はきれいで、街並みの立派さと比べてあまりに一人当たりのGDPが低すぎるのだが、これは通貨が弱くなっているためでもある。
とはいえ、ウズベキスタン人の民度はベトナム人とは比べ物にならないぐらい高いように感じた。