ミュージカル「EVITA」というより、どちらかといえば史実について述べます。
このミュージカルにおいてナレーターというか狂言回し役をつとめるチェ・ゲバラは、エビータと同じアルゼンチン生まれでありながら、エビータと関わりがなければ、ペロン大統領との関わりもほとんどない。
また、エビータが死去した翌年にやっとブエノスアイレス大学医学部を卒業しているわけで、エビータとは活動する時代も異なっている。
チェ・ゲバラの経歴はこんな感じである…。
南米をバイクで旅するうちにマルクス主義革命を志すようになったチェ・ゲバラは、キューバにおいて、カストロと共に武装闘争によるキューバ革命を成し遂げた。
そして、キューバで主要な大臣を歴任した後に現実主義的なカストロと決別し、コンゴやボリビアで革命闘争をしていたのだが、39歳の時にゲリラ活動中にボリビア政府軍に殺害されるという末路をたどった人物である。
なお、知ってそうするのであればいいが、チェ・ゲバラのことを何も知らずに写真をファッションに取り入れている人はみっともないと思う。
チェ・ゲバラは、自分自身がマルクス主義ゲリラでありながら、基本的にエビータの業績に対して「あんなもの政治じゃない!女優の慰め!ヒステリー!」と歌うなど、批判的な感想を述べ続けるシニカルな役柄として登場しているのだが、私などはそれを見てシニカルな気分になる…。
そして、エビータはこのミュージカルにおいても、史実同様に見事なまでのアンチヒロインを演じているのだが、このような経歴をたどっている。
エビータは実の父の葬式にすら参列できない貧しい私生児の立場から、美貌と性を売り物にして次から次へと男を踏み台にして出世し、やがてペロン陸軍大佐へとたどり着く。
なお、それゆえに、後にカトリックの白人富裕層から「淫売」「成り上がり」と非難される。
アルゼンチンは20世紀前半には「世界で最も裕福な国の1つ」と言われ、2度の世界大戦にも参戦せずに戦時中の食料輸出で莫大な利益を上げたものの、貧富の差が激しい状況にあった。
そのような中、エビータは識字率の低い国民に対してラジオ女優として宣伝・煽動活動を行い、やがてペロンを大統領に就任させる。
ペロンの大統領就任後に政治の世界に身を乗り出したエビータは、富裕層から強引に金品を徴収し、貧困層に配って回るという究極的なばら撒き政策などを行った。
もちろん自立させるための政策もへったくれもあったものではないアナーキーな政策だが、この「エバ基金」を通じて行ったばら撒きが貧困層にとって聖女のように映ったのは事実である。
また、その美貌や若すぎる死がカリスマ性を高めたのは言うまでもない…。
頂点にあったエビータは、その後、癌に侵されて33歳で死去してしまう。
エビータは自らの死後、遺体に防腐処理を行うことを希望したというが、その遺体はペロン政権崩壊後に外国に隠蔽され、ペロン政権復活後に遺体は帰還した。
観劇する側は、こんな成り上がり方をし、こんなアナーキーな政策をとるエビータに何の感情移入もできないはずなのだが、歌の美しさやその若すぎる死に引き込まれてしまうわけで、その複雑さがこのミュージカルの真骨頂なのであろう…。
「何故にあんたが…」とツッコミたくなるチェ・ゲバラに対してもまた同様である。
ペロン大統領はエビータの死から3年後の1955年にクーデターで失脚し、やがてフランコが君臨するスペインに亡命する。
亡命から18年後、ペロン亡命後もアルゼンチン内で影響力を保持し続けた「ペロニスタ」がペロンに大統領選出馬を懇願し、1973年に大統領に再任する。
しかし、翌1974年に78歳で病死してしまう。
とにかく、フランコ独裁で停滞したスペインと同様に、アルゼンチンはペロンの独裁によって停滞を余儀なくされたのだといえよう。
なんか、ミュージカルの感想記になっとりませんね…。
私というフィルターを通すとこうなっちゃうということでしょうな…。