今回の東京地裁の仮処分決定においてライブドア側の主張がほぼ認められた。
今さら遅いかもしれないが、前回、ライブドアとフジサンケイグループの争いについて整理した2月19日からずいぶんと時間が経ったこともあって、再び論点を整理しなおしてみた。
コトに詳しい方は読んでも時間の無駄かもしれません…。
仮処分決定内容について
仮処分決定については、以下のような結果に終わり、ほとんどライブドア側の主張が認められた。
- 新規予約権を発行してライブドアの株式保有比率を薄めようとするフジサンケイ側の戦略については、「フジサンケイグループ経営陣の支配権維持が目的で、不公正発行に当たる」とし、予約権の発行差し止めを求めるライブドアの主張を支持。
- ライブドアの東証立会外取引におけるニッポン放送株の大量取得は「証券取引法に違反していない」として正当化され、ニッポン放送の主張は却下。
- ニッポン放送が、アダルトサイトをも運営するライブドアの傘下になっても「公共性上問題はない」とし、ニッポン放送の主張は却下。
- ニッポン放送株をライブドア名義に書き換えることをニッポン放送側が拒絶していたが、「拒絶はできない」ということで、ライブドアの主張を支持。
- 「フジサンケイグループに残ることがニッポン放送の利益につながる」という主張に対しては、ニッポン放送におけるフジサンケイグループとの取引割合はわずか4%であり、フジサンケイグループから外れても大して痛くはないわけであるから、「そうだとはいえない」ということで当然ニッポン放送の主張は却下。
- 新株予約権の発行価格は5,950円で、これは不当に安く、有利発行に当たらないかという件では、唯一ライブドアの主張が却下され、妥当だと認定されたが、そもそも今回の件では新規予約権を発行できないので意味がないと思う。
- とにもかくにも、今回の仮処分決定の意義としては、新株予約権差し止めが認められたことにつきるワケで、これによって、「市場ルールが通用しない」いうことになって外国人株主や個人株主が日本市場に不信感を抱く事態を避けることができたという点が重要であろう。
今回の教訓
新株予約権を認めてしまったら、外国人の買いによって支えられている日本市場は、ある意味においてダメになってしまうところだったかもしれない。
また、東証立会外取引におけるニッポン放送株の大量取得についても、「現行法を守って取引している以上、違反とはいえない」という姿勢が示されたことで、市場関係者の信頼が得られたといえるが、これについては、もっと上の議論として現行法の不備が批判されるべきであったといえるであろう。
これについては後述する。
…で、追い詰められた格好となったフジサンケイグループ側に残された控訴以外での最後の一手としては、「クラウン・ジュエル」という防御策が残されるのみである。
しかし、仮に、ニッポン放送が、「役員が、重要な資産を役員改選の前にグループ内企業に売り払ってしまう」というこの荒業をやってしまったら、フジサンケイグループへの株主や世間からの風当たりが想像つかないほどにまで高まるばかりでなく、それを決定した役員は訴追され、社会的にも徹底的に叩かれるであろうから、それはないだろうと私は思う。
また、ライブドアは、ニッポン放送の亀渕昭信社長ら全役員に対し、ニッポン放送が保有するフジテレビやポニーキャニオンなどの株式を売却しないよう要請をすることで、すかさずけん制に入ったようだが、議決権ベースで45.47%を保有する筆頭株主からの要請を無視できるほど強心臓かつ命知らずな役員はいるまい…。
なお、今回の件において、株式取引関係者はともかく、世間でもライブドアを支持する声のほうが多かったような気がするが、それは、ライブドアが今回行おうとしたM&Aが正しかったからということではなく、コーポレートガバナンスがずさんで買収されるようなスキを作っておいて、実際にやられてしまってからも、アンシャンレジーム的な発言を繰り返したフジサンケイグループと、それを擁護に回った政治家や他の大企業経営者などのアンシャンレジームに対し、世間や株式取引関係者が反感を覚えたためであろう。
また、たしかに表現の自由はあれど、株を持たない従業員がこのような内容に対して意見表明をするのは日本ならではの出来事であったと思われるが、このことに対して反感を覚えた人も多かったのではないかと思う。
中にはアンシャンレジームを嫌悪するあまり、ホリエモンを応援・礼賛する人も多くいらっしゃったように感じたが、今回の件でまず整理をしておかねばないことは、「ホリエモンがやった行為はどちらかといえば卑怯で決して褒められた行為ではなかった」ということと「今回の件でライブドアが日本社会に残した教訓はものすごく大きい」という2点であろう。
まず、「ホリエモンがやったことは褒められたことではない」という点から触れる。
今回の件からもわかるとおり、明確な違法でなければ、制度のスキ間を徹底的につくのがライブドア流だが、フジテレビによるTOBのスキ間を狙っての立会外取引を行うという今回のやり方は姑息と言えば姑息であり、決して褒められたやり方ではない。
それは、法の精神に乗っ取ればライブドアもTOBによる取得を目指すべきだったはずだからである。
スポーツにおいて、「反則を取られなければ、スポーツマンシップなんぞクソぐらえ」「ルールブックに反則と書いていなければ何をやっても良い」というのと同じである。
しかしながら、例えば、ライブドアが同じようにTOBによってニッポン放送株の取得を目指した場合、旧態依然とした日本の法人株主は仮にライブドアのTOB価格のほうが高かったとしてもフジテレビ側に応じたであろうからこうせざるを得なかったと言えなくもないが、少なくともTOBとおう手続きを踏まなかったから、「ライブドアがニッポン放送を買収して何がやりたいか」ということが今ひとつ見えてこないという理由にもなっている。
次は、「今回の件でライブドアが日本社会に残した教訓はものすごく大きい」という点について触れる。
今回の出来事が、不備だらけのまま改正されそうであった会社法(2006年の商法改正)に与える影響は大きく、また、上場企業の経営者や株主に与える影響も大きかったといえるであろう。 今までの世の中にはそれほどなかったが、これからライブドアのような手法で買収してくる会社が他にないとは限らないわけで、また、当然ながら、会社法が改正された後にはもっとそういった事態が想定される。
教訓を活かせるか
今回の事件の成果・果実として、「これから今回の件のような事例が起きないように…」ということで、法整備が進んでいくだろうし、企業側も買収防止策を本格的に講じるようになるものと思われるが、ここでなされる法改正などの流れをみて「ライブドア叩きだ!」などと言う人は、先にも述べたとおり、物事の本質がわかっていないといえよう。
人間は歴史から学ばなければならないし、そうでなければ歴史を学ぶ意味がない。
1980年代にアメリカにおいて敵対的買収の嵐が吹き荒れた時代があって、買収した企業の資産を売却し、自分が儲けるためのM&Aが吹き荒れたため、会社は疲弊し、大量の失業者を生んだ経験から、「強引な買収は合法であっても社会悪」であるという認識が広まり、ポイズンヒルをはじめとするさまざまな企業防衛策が講じられた。
90年代になってからは、80年代の反省から企業価値を高めるための戦略的M&Aが主流となり、2000年代には機関投資家が圧力をかけて買収をする時代となっているという。
ところで、敵対的買収というのは取締役会に対してのみ敵対的なのであって、従業員や顧客を敵に回しているわけではないとはいえるし、ファイザー社によるワーナーランバート社に対する敵対買収はむしろ成功だったわけで、敵対買収のすべてが悪ではなく、外資が脅威であるとも限らない。
しかし、今回ライブドアがやろうとしたことは、まだ、本質を把握するほどには全容が見えないものの、どちらかといえば1980年代のアメリカで起きたM&Aに近い内容といえ、安穏とした日本社会がM&A先進国のアメリカから今ひとつ勉強できていなかったということが明らかになったわけで、長い歴史を経てアメリカが得た果実を手にするために日本社会は先に進まなければならないだろう。
人口が減少していく日本企業が生き残りをかけるうえで特に海外でのM&Aは避けられないことからもそうである。
まあ、この結果、再び、安定株主による株式の持ち合いが進むだけという事態は避けて欲しい。
また、確かに全般的に日本は株主が軽視される傾向にあるものの、株主以外にも、役員・従業員・取引先・顧客などさまざまなステークホルダーがおり、その利害は対立・相克しているものであり、株主の立場だけが優先されるのが資本主義だと勘違いをしてはいけないであろう。
そう思っている人には実際に株式取引を行っている人に多いが、実社会に照らし合わせて考えるとそうではないであろうことぐらいすぐにわかるはずで、いかにも自分が論理的にモノゴトを言っているかのような気持ちになって「資本主義とは株主を中心に考えることが大事だ」と言ってはばからないような人は幼稚な人であると私は思う。
そういう私も株式投資家だが…。
そして、アンシャンレジームを破壊する存在としてのホリエモンは素直に認めたいが、単に下手にIQの高い子供が大金を手にしただけのような部分もあるわけで、ホリエモンのそのような部分に関しては私は礼賛できない。
…といいつつ、見た目・表情・性格・話し方・考え方・野望などすべてを含めて、ホリエモンを徹底的に嫌うウチの彼女と会話をするときは、常にホリエモンを擁護してしまう私なのであった…。