GOODDAYS 東京仙人生活

ひっそりと静かに生きる47歳仙人のつぶやき

日本経済と労働政策② 労働需給の逼迫

今回のシリーズのために先日に別途書いた内容が下記の内容である。

 

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ここで述べたのは以下のような内容である。

日本での新卒時の就職は、就“職”ではなく就“社”なので、日本企業においては自らが望むようなキャリアを構成し辛い。

また、キャリアやスキルの細分化や項目化がなされている欧米と違って、職務経歴が正当に評価され辛い。

そして、正社員は高給でクビにならないのだが、会社の従属者になることを余儀なくされる。

その結果として、長時間労働有給休暇の未消化裁量労働でもないのに自宅に仕事を持ち帰るといった世界的に珍しい現象が起きる。

いくら求人倍率が上がったといったところで、新卒で大企業に入り、会社の都合で部署移動や転勤をし続け、スキルが社内特化したサラリーマンが中高年になって他社に再就職しようとした場合、余程の付加価値がない限りは同じような給与の会社に入れる可能性は低いわけあり、ここにこの国特有の悲劇がある。

 

同じような事例として日本の不動産事情が挙げられると思う。

日本は他の国よりも借りる側の権利が異常に強いため、家賃を払わない借主であっても簡単には強制執行によって立ち退かすことができない。

なので、貸す側は連帯保証人だのなんだのと保証をつけさせざるを得なくなるのだが、そうすると身寄りのない人や外国人が借りるのはかなり難しくなる。

外国人が不動産を借りるのがあまりに難しいため、外国人駐在員は尋常でなく料金の高いサービスアパートメントを借りることとなり、イギリスのマーサー社などが行う駐在員生計調査において、「東京は世界最高峰に生活費が高い都市ですよ」と世界に流布される結果につながっている。

 

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このように出口が厳しければ入口が厳しくなるのはゲームの常ともいえるのだが、日本の解雇規制の異常な厳しさがこれにあてはまる。

昭和54年の東洋酸素事件の東京高裁判例で示された整理解雇の4要件があるため、日本の会社は金銭解雇が可能な他の国と違って、正社員の解雇には相当な困難が伴う。

まずクビになることはまずないし、不祥事でもない限りは減給もかなり難しい。

そのため、雇う側は正社員の採用や昇給に対して慎重にならざるを得なくなるのである。

 

こうして、足手まといの中高年の正社員であっても抱えざるを得ないのだが、そういった正社員は家族を守るために何があっても辞めない。

窓際に座って書類整理をやっても会社に居座る。

そのしわ寄せが非正規社員である契約社員・嘱託社員・アルバイト・派遣労働者や下請けの業務委託先に行くのだが、これがこの国の労働慣行の基本構造となっている。

そのため、日本社会において、非正規労働者が得られる給与は中高年正社員層と比べ、目を覆うほどに低いうえ、非正規労働者解雇も可能なので、所得の低い非正規労働者は雇用の調整弁として用いられる構造になっている。

俺は当時は改正労働者派遣法を成立させた小泉・竹中路線を支持していたのだが、このような構造が長期固定化したままになっているのを見て、質の悪い方向に使われる結果になってしまったなと後になって思うようになった。

とはいえ、竹中氏は日本の元凶である正社員の解雇規制を緩めることに積極的だったのだが、正社員の労働組合である連合等の暗躍などがあって、本来の趣旨がとん挫したために現在の構造が定着したわけであり、そういう意味では竹中氏が悪いとはいえないのだが、そうやって起きた現象があの「派遣村」であったともいえる。

中国における共産党員や都市戸籍と同じで、正社員という既得権益の恐ろしさとしか言いようがない。

 

前回に述べたが、国民の幸福に大きく資するのは、アルバイトや契約社員クラスの仕事をして、単身で生活できる、夫婦で子供2人を何とか養える状況を創出する政策である。

このような状況になれば、もしくは転職が容易な雇用慣行のある社会になれば、正社員も従属者になってまで会社にしがみつかなくて良くなるわけで、会社を辞めることに対する先知れぬ不安と決別できるようになり、ブラック企業が淘汰されるわけである。

 

仮に時給1,300円で1日に8時間働けば、日給は10,400円になり、年に240日働けば約250万円になり、夫婦で働くと世帯月収は40万円超世帯年収約500万円になるが、子育て費用が福祉で充当されれば、税や社会保険料を引かれたとしてもなんとか生活できると思う。

しかし、時給1,000円の夫婦だと、世帯月収は32万円、世帯収入は384万円にしかならず、諸費用を考えると、家族4人で暮らしていくのは厳しくなる。

そういった意味でこの差はとてつもなく大きい。

 

そして、時給1,300円を確実なものとするためには、最低時給を強引に引き上げる方法と、労働需給を逼迫させて人手不足の状況を作り出して時給を上げざるを得ない状況を作るという方法がある。

また、前回にも述べたが、最低時給水準における完全雇用は政府が何よりも優先して目指すべき目標であり、そのための財政支出は絶対に惜しんではならないと思う。

世の中にはスキルアップをしながら働くということを苦手としている層がたくさんいると思われるが、そういった層に確実に雇用を提供できるように財政支出を行うことは、高コストなベーシックインカムや各種の給付策よりもずっと低コストで済むのではないかと思う。

つまり時給1,300円であれば必ず何かしらの仕事にありつけるというような社会を作ることが国民の最大幸福の実現につながると俺は思うのである。

 

強引に最低時給を上げる方法デービッド・アトキンソンが主張する方法であり、現在の韓国が行っている方法である。

韓国の文在寅政権は労働需給が逼迫していないなか、もしくは十分な財政出動をしないなかでこれを行った。

その結果、中小企業が潰れ、もしくは企業が海外に移転し、せっかく最低時給を日本を上回るレベルに上げたのに、逆に低所得層の所得が下がってしまうというあってはならない現象が起きてしまった。

 

ちなみに、高い最低時給の確保失業の撲滅とでは後者のほうが断然に重要である。

日本における失業率と男性の自殺率には驚異的なまでに正の相関関係があるからである。

韓国のように最低時給を強引に上げてしまうと、逆に総労働時間の減少や失業を生み、肝心な所得の上昇や雇用の確保を実現できなくなってしまう。

 

それに対して、リフレ政策は「人手不足の状況を作って労働需給を逼迫させて企業が時給を上げざるを得なくなるようにする」というアプローチでこの問題を解決しようとしており、これは高橋洋一氏が頻繁に解説をしておられる。

また、リフレ派というわけではないが、久留米大学の塚崎公義教授もかなり昔から頻繁に主張されている。

 

日本銀行は法的に物価の安定のみを使命としているが、アメリカのFRB物価の安定と雇用の最大化を使命としている。

物価の安定のみを使命とする日銀はインフレ率のみを目標とせざるを得ない立場なのだが、リフレ政策の真の目的はインフレターゲットではなく、雇用の最大化によって労働需給を逼迫させることで失業を無くし、給与・時給を上昇させることにある。

実際に、安倍政権下の5年間で増えた労働人口の多くは高齢者や女性でありながらも、人口減少下にある日本で250万人も労働人口が増え、失業率はこれ以上下がらない水準にまで下がった。

 

供給力過多傾向にあり続けた日本において、金融緩和政策が有効需要を喚起したことで需要が増えて、GDPギャップ=需給ギャップが埋まり、労働者数が増えているのにも関わらず、さらに人手不足が起きるまでに至ったのだが、株価上昇やインフレ目標よりもこれこそがアベノミクスの真骨頂だったわけである。

日本のデフレ病が強すぎるためにインフレにはなっていないものの、企業の海外進出と多額の経常黒字=海外投資という資本の逃避を伴いながら、それでも労働需給を逼迫させることができたわけである。

 

このように、小泉政権聖域なき構造改革規制緩和によって企業の体力や生産性を高める供給力の拡大を重視する右寄り・企業寄りの改革だったのに対し、アベノミクスは金融緩和政策や働き方改革同一労働同一賃金など、需要力の拡大を重視する左寄り・労働者寄りの政策を次々に打ち続けているわけであるが、常に経営者であり供給側の味方であり続けた自民党政権が労働者に味方する策を打ち続けたのだから安倍政権の蛮勇には見事としか言いようがない。

大体、サラリーマンという人種は日々の仕事に忙殺されるがために、世の中の本質について見つめる機会を持ちづらい人ばかりだし、休日の時間が惜しいためにあまり選挙にも行かないため、小泉政権と安倍政権以外の自民党はサラリーマンをあまり相手にしてこなかったのだから余計にそうである。

 

最低時給はさほど上げないが、労働需給を逼迫させることで給与・時給を自然に上昇させていくという策は上策も上策なわけだが、最低時給とデービッド・アトキンソン氏の主張に関する俺の考察については本シリーズ8回目と最終回の9回目に述べる。

 

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