GOODDAYS 東京仙人生活

ひっそりと静かに生きる47歳仙人のつぶやき

反応する前に少し考える

情報過多なため、情報をきちんと咀嚼できないのは仕方ないし、ニュースなどに対して脊髄反射的な感想を抱いてしまいやすいのも仕方ないかもしれないが、さらにSNSの存在がそれを助長するので、きちんと考える前に繰り出されている意見が飛び交いまくったり、時には良くわからないような炎上が起きたりする恐ろしい世の中である。

 

俺が子供の頃にはハロウィンは一切祝われていなかったのでいまだに馴染めないのだが、自然発生的に渋谷でハロウィンの仮装を楽しむ人が出てきたのだという。

そして、世の中には成人式やワールドカップでの日本代表勝利や阪神優勝の際にバカ騒ぎをしたい人が一定数いて、さらにその中に、周囲の人や世の中やマスコミの注目を集めるためだとか、日頃のうさを晴らすために法に反する行為に及んでしまう人がいるが、先日のハロウィン騒ぎのなかでもそのような事例が出てしまったようである。

これに対して当局である自治体や警察ができる対策は、騒ぎを抑止する策を練って講じることと、違法行為を行った者がいればすみやかに逮捕することの2点である。

「いい絵が撮れるまで帰れない」とばかりに、必死になって喧騒を探しに行ったマスコミが嬉々として繰り出す絵を見て即座に怒りだしてしまうなら、暴走族やガラの悪い界隈で深夜に悪事を働く人々に対しても逐一怒らねばならないだろうにと思うし、郊外の産業道路の道端にゴミを捨てまくる人々にも逐一怒らねばならないだろうにとも思う。

 

昨日、大戸屋一部店舗でストローを撤去するというニュースが出ていたが、これは本質的にはマイクロプラスチックの海洋流出を防ぐということが大きな目的であり、その目的全体から見ればストローを排除しても、言葉は悪いが鼻くそレベルの効果しか見込めないだろう。

ストローを機に各自がマイクロプラスチックの海洋流出について考えて動いてからこそ意味を為すわけである。

ところで、すかいらーくグループやデニーズも前に同じような発表をしているのに、重ねるかたちで同じことを発表するのには、環境に配慮しているという企業姿勢を打ち出す目的と、このことをPRすればマスコミに取り上げてもらえて広報効果を見込めるという目的もあるわけで、本筋よりも、むしろこちらにねらいがあるのだろうと推測する。

額面通りに「ストロー撤去=環境にやさしい」と消化して終わらせる前に受け手側が考えるべきことはたくさんあるのだろうと思う。

 

解放されてシリアから帰国した安田純平氏に対して、自己責任だという意見が出るのも、紛争地帯の取材が必要なのは事実でありながらも不用意な面があったのではないかという意見が出るのも、かなりの国費の支出や外交官の尽力があったのではないかと納税者としての議論がなされるのも仕方ないと思う。

しかし、安田氏が法に反しているかも確かではなく、直接的に自分に関係ないのに、異様なまでに叩く人がいるのには違和感がある。

重要な論点があるとするならば、安田氏が法に反したかということと、ああいった場合に国がどこまで手をつくすかという公的機関の手続きに関してであろう。

古代中国の諸子百家の思想のなかで現代に生き残っているのは儒家の思想ではなく、法家の思想である。

法治国家では司法手続きによってのみ裁かれるものであり、外野からの特に匿名での誹謗中傷はあくまで野次馬に過ぎず、裁けもしなければ解決も生まない。

とはいえ、安田氏は有名人なので有名税という割を食ったし、せっかく生還したのに大量の匿名バッシングを受けて大変に気の毒だが、災い転じるというか、これで食うに困ることはなくなるのではないだろうかとも思う。

 

前に、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの井納翔一投手のご夫人の容姿を中傷する書き込みをネット上に行った人を相手取って、井納投手側が通信会社に情報開示を請求し、書き込みをした本人を特定し、名誉毀損と情報開示にかかった費用として191万円の支払いを求めて訴えを起こしたと各マスコミで報じられたが、訴えられた20代の女性は途方に暮れているという報道も別途出ていて、これなどはなかなか痛快な事例だと思った。

また、弁護士会が出した朝鮮学校への補助金交付をめぐる声明に対し、あるブログが弁護士資格の剥奪などを求める懲戒請求を行うことを読者に呼びかけ、約1,000人がこれに応じたようだが、逆にこの1,000人が弁護士側から訴えられて裁判が各地で行われていると少し前に各マスコミで報道された。

訴えられた側には和解金の支払いに応じた人もいるようであるが、これも逆に訴えられた側が大慌てになっているという後追い報道も出ている。

 

先に述べた通り、法治国家においては法に照らし合わせてどうかということが重要な論点であり、脊髄反射的に反応する前にまずはその論点で考えないと独善的になりやすいだろうと思う。

一応は法学部卒ということもあり、昔に用もなく裁判の傍聴に何度か行った際に、とにもかくにも法治国家というのはどこまでも法が基本となるのだなと強く思わされたことを思い出す。

 

ところで、マスコミが脊髄反射的な人間を作る側になってしまうだけならともかく、マスコミ自身の取り上げ方にそれを煽る意図を感じてしまうこともなくはない。

俺は過激なまでにリベラルな思想を持っているのでガチガチの保守派の肩を持つ気は全くないが、杉田水脈衆議院議員LGBTの「生産性」記述に関しては不用意とはいえ真意と違う取り上げられ方をした面もあったのではないかと思うし、小川榮太郎氏の不用意な記述に関しても同様な面があったのではなかろうかと思うし、足立康史衆議院議員の「朝日新聞、死ね」発言の取り上げ方に至ってはまさしくそうだったように思うのだが、そのような事例を上げ始めたらキリがないかもしれないと思う。

 

脊髄反射的に反応したり、クレームを怖れて次々とタブーを作ったりすることよりも、物事を複数の視点から見て議論を尽くすことが大切だと思うが、交わって議論することなくお互いに罵る事例が世の中ではあまりに多いですわな。

日本では、途中で立場を交代して行うディベートの教育と、感情と議論とを分離する習慣を培う教育と、自分と違う意見を尊重する教育が必要だったのではないか、いや、必要なのではないかと思う。

 

 

選挙の洗礼あれこれ

森友事件において首相も財務大臣も辞任に追い込まれずに済んだが、財務省は忖度して文書書き換えに手を染め、朝日新聞相手に一敗地に塗れ、また、末端職員に自殺者を出してしまったものの、結局は歳入機関と歳出機関に分離解体されることはなかった。

あれほど日本中の注目を浴びた事件だったのに、今や財務省は消費税増税という果実を手にしつつあり、さらに防衛省に対して今後5年間で1兆円規模のコスト削減を迫るという剛腕ぶりを発揮している。

中央省庁の障害者雇用の水増し問題にしても、新しく障害者を雇うことで、うやむやなまま収束するだろう。

橘玲氏は「中央省庁が障がい者雇用を水増しするほんとうの理由という題の文章において、これほど障害者に向いている職場はないのに、「なぜ健常者が彼らの仕事を奪っているのか」と疑問に思う人間が出てくるといった趣旨のことを述べられているが、これはあまりに痛快な文章である。

政治家は選挙の洗礼を受けるが、選挙の洗礼を受けない中央省庁の役人の好き勝手はまかり通りやすいのだろう。

 

選挙の洗礼がない国といえば、中国や北朝鮮が思い浮かぶが、サウジアラビアは「実」だけではなく、「名」の部分でもサウード家支配の絶対君主制の国家である。

世界でもかなり特殊な立ち位置にある国家であるサウジアラビアによるカショギ氏殺害は、サウジアラビアらしいといえばらしいが、あまりにもお粗末であり、あまりにきな臭い。

サウード家といっても82歳のサルマン国王には凄まじい数の子供がいて、ムハンマド皇太子はその25番目の男子なのだが、政敵をリッツ・カールトンホテルに押し込めるなどして、実質的な権力を手にしている。

こんなに子だくさんならサウード家の王族が多すぎて血も薄まるというか、跡継ぎの正当性なんてあるのかとも思うが、あの若さで凄絶な権力闘争を勝ち抜くのだからすごい人物である。

サウジアラビアは、世界の原油供給や価格決定に絶対的な影響力を持ち、メッカとメディナの聖地を擁する16億のムスリム世界の盟主でありながら、アメリカにとって特に重要な同盟国であり、また、アメリカの武器を買いまくってくれる上客中の上客なので、ワッハーブ派の戒律で国家を運営しようと、どんなに女性の権利を奪おうと、すさまじい人権弾圧をしようと、公開処刑をしようと世界から公然と黙殺されている特殊な国家である。

特にトランプ政権はサウジアラビアとの距離が近く、改革派とも目されてきたムハンマド皇太子とクシュナー氏の仲はとりわけ強固とされるわけで、今回の件で頭を悩ませているのはむしろトランプ政権のほうである。

日本にとって最大の原油供給国であるサウジアラビアは日本の生命線も握っており、日本にとってサウジアラビアから原油を買わないというカードはない。

北朝鮮やシリアのアサド政権を見てもわかるが、独裁政権は簡単に失脚しない。

独裁国家には選挙の洗礼がなく、超長期政権なので時間を味方につけられる。

どれだけ世界中が引こうとサウジアラビアにとってはどこ吹く風で、権力構造は変わらないだろうと思う。

また、確かにこの事件はサウジアラビアにとってはばつが悪かったが、時間が経てば見事に忘れ去られるだろうと思う。

サウジアラビアがトルコに対して恨みを忘れることはないと思うけど…。

なお、サウジアラビアは超福祉国家なのに原油輸出以外の産業がないという宿命的な弱点を抱えている国であり、実はインフラ面も弱く、超長期的には相当大きな問題を抱えている国でもある。

 

政権および自民党は移民政策へのギアをさらに入れたようだ。

労働者不足の解消・安い賃金で働く労働者の確保という2つの果実が、労働者賃金の降下圧力・医療や社会保障の福祉コスト・帯同家族の教育コスト・治安や文化摩擦への影響を上回ると判断したのだろう。

つまり、「労働市場原理に従って、人が集まるまで賃金を上げ続ければ良く、賃金を上げ続けられないブラック企業や省力化できない生産性の低い企業は淘汰されるべし」とは考えなかったということである。

根底には自民党の支持層である中小企業の経営者への配慮があるのだろう。

同時期に消費税の増税も決めたが、ポイント還元などという小手先の策を弄し、携帯電話料金の値下げを迫ったり、カード会社に手数料の下げを迫ったりするといった政治圧力をかけるなど、やることの恣意性が強すぎてうんざりするが、移民を増やし、消費税を上げればデフレ脱却への道が遠くなるということは確かだろう。

他国のようにGDPを成長させたいのであれば、デフレ脱却が至上命題だが、非勤労者層にとってはデフレから脱却されては困るわけで、投票率の高いこの層への配慮もあるのだろう。

 

選挙の洗礼といえばアメリカの中間選挙が迫っている。

トランプ氏ほど自分の支持層の意向に忠実に従う政治指導者は稀有である。

たまに軍事政策や環境保護政策などで脱線することはあっても、自由経済と民主主義を推進し、理想を説いて世界の国々に秩序とルールを守らせてきた超大国のトップがここまで自分の支持層の意向に露骨に従うことがあるとはトランプ政権の樹立までは想像だにしなかった。

選挙民の力、あまりにも恐るべしである。

 

f:id:gooddays-shumai:20201226224903j:plain4月末に北へ渡ったゆりかもめが昨日隅田川に戻ってきた。お帰りなさい!