GOODDAYS

世の中をかいくぐって逆張りの人生を歩む俺の意見

毎月勤労統計調査と俺の統計調査経験

今回は厚生労働省の毎月勤労統計調査の不正の件について述べるが、まずは俺の経験を述べる。

 

俺が新卒後、デイトレーダーになる前に4年半ほど勤務した会社は統計調査の会社だった。

交通調査・交通解析を中心に担当していたが、世論調査も担当していて、ローデータを集める大変さは骨身にしみてわかっているつもりである。

もちろん、現場の苦労もわかっているつもりである。

新人研修で公共の世論調査訪問調査員をすることになり、割り当てられたエリアが歌舞伎町と百人町だった。

「おまえはキックボクシングで鍛えているからこのエリアの担当にしたぞ!」と先輩社員に笑いながら言われた。

詳細は書かないが、このエリアでの訪問調査は実に大変だった。

住民基本台帳を用いて無作為抽出したリストをもとに、日本語が通じにくいけれども日本国籍を持つ住民や、かなり怖めの住民の家を数多く訪問して、住民が在宅中なら説明して調査票を置き、後日に再訪問し、回収した調査票をその場で細かくチェックするという作業を空き時間や就業後の時間を使って粘り強く行った。

今の難しい世の中にこのようなフルスペックの訪問調査がどの程度行われているのかわからないが、20年前は高い回収率を目指す訪問調査があたりまえに行われていた。

また、そもそも俺が交通調査を中心に行う部署に入ることになったのは、この部署がもろにガテン系の部署だったからであり、また、俺自身が今のように小難しい人間になる若い頃だったこともあって、このガテン系の部署の居心地はとても良かった。

 

企業は国税庁税務調査に対しては別室を用意してこの上なく丁重に対応したとしても、厚生労働省毎月勤労統計調査に対しては企業の担当者も面倒くさそうな対応していたのだろうなと想像する。

謝礼も用意できないのに複雑な調査票を見せて企業に回答をお願いした時の企業の担当者のつれない感じは勝手に想像することができる。

また、たとえば医師を集めてのインタビューなら数万円のギャラを払えば良いわけで、正当な謝礼を用意でき、かつ、必ずしも統計理論に忠実に行う必要のない民間の調査のほうが楽である。

統計調査は目的に応じて、サンプル数や抽出方法や目標回収率や調査方法を決めていくのだが、全数訪問調査というのは滅多なことでは行うものではない。

俺個人が担当した業務で、某環状高速道路の用地買収予定の全世帯に対して万単位の調査を行ったことがあるのだが、これはポスト投函・郵送回収方式の全数調査であり、当然ながら訪問調査ではなかった。

 

視聴率調査はビデオリサーチ社が独占的に行っていて、関東地区のサンプル数は900件程度となっているが、これは約2万件に1件という割合になる。

「信頼区間」という小難しい統計理論があるのだが、要はこの程度のサンプル数でも大金をはたいて広告の出稿をするうえで十分に信頼できるだけの精度のデータが得られるということである。


毎月勤労統計調査では、東京都の500人以上の事業所は全数訪問調査することになっているところを2004年以降は3分の1の事業所のデータしか抽出せず、しかもそのことを15年間隠し続けてきたという。

勝手にサンプル数を減らして、長年に渡ってそのことを隠し続けるのは組織が腐敗しているとしか言いようがない。

しかし、視聴率調査は2万件に1件への調査で十分な精度が得られるとしているのだが、正しく抽出したうえで3分の1の事業所を訪問調査すれば回収率にもよるが十分すぎるほどの精度を持ったデータが得られるということは疑いようがない。

 

今回の件で、俺が何よりも唖然としたのは、国家の基幹統計を扱っておきながら3倍に戻すという超初歩的な処理をしていなかったことについてである。

さらに痛かったのは、大企業の数字を3倍せずに中小企業の数字と合わせたために額が低く出てしまって、本来、雇用保険労災保険などで受給者に給付するべき額よりも少ない額しか給付していなかったことが明らかになったことである。

これが、過払いだったらもう少しマシだったのかもしれないのだが、これまで約2,000万人という途方もない数の人に過少給付をしてしまったようで、それを今になって再還付するなどと言っているようである。

一人当たり約9万円低かった労災保険に関してはまだわかるが、一人当たり約1,400円しか低くなかった雇用保険に関しても追加支給リストを作成して給付し直すという途方もない作業を膨大な手間と税金を割いて行うというのだろうか。

あまりにもバカバカしくて開いた口が塞がらない。

 

さらに今回の問題によって以下のようなさまざまな問題が浮かび上がってきた。

これまで厚生労働省は、グリーンピア事業での無駄遣い・消えた年金問題・個人情報の流出・働き方改革の際の不適切な裁量労働制実態調査など、数多くの不祥事を起こしている。

そして、今回の毎月勤労統計調査の件でも原因究明のために特別監察委員会を活用して「第三者委員会による中立的な調査」を行ったが、これがまた組織の内部の関係者によって行われたお手盛りの内容だったことが明らかになって世の中を呆れ果てさせた。

 

また、日本政府には他国の政府に比べて統計に割く人員が断然に少なく、統計業務が軽視されていることもわかった。

カナダの統計職員が5,039人なのに、人口が何倍も多い日本には2,613人しかいないという。

なお、他国では統計専門の省庁専門職員によって一元的に行っている場合が多いのに、日本では省庁別同じような調査をいくつも行い、しかも数年ごとに入れ替わるキャリア官僚が統計業務を統括しているというのだからお粗末である。

 

官僚機構というのはコスト感覚が働きにくい組織なのだが、それにしても無駄に思えることが多い。

アンケート形式の毎月勤労統計調査よりも、国税庁が持っている源泉徴収データを素データにするほうが圧倒的に精度が高いはずで、このデータに、適切なサンプル数を確保した源泉徴収をされない勤労者のデータを合算して求めれば良いと思うのだけど、そもそも源泉徴収のデータを別用途に用いることが法律で禁じられているからこれができないわけで、そのあたりは国会で議論されないのかなとも思う。

なお、国税庁では民間給与実態統計調査という似たり寄ったりな調査を行っているようである。

 

それにしても、今回の件で数多くの問題が明るみになったが、最もしびれたのは、総務省が政府が特に重要と位置づけている56の基幹統計を点検した結果、半数近い22統計においてのべ31件の不適切な手続きミスがあることが見つかったと発表した件である。

どーすんだろ?としか言いようがないのだが、一体どうなるんだろ。

 

堺屋太一氏が亡くなられたが過去に道端で名刺をもらうという出来事があった。

人は年をとればいつかは亡くなってしまうとはいえまことに残念である。

もちろん、名刺はこれからも大切に持ち続けるつもりである。