世の中は超ギスギスしているのに、個人としてはとても幸せで何の悩みもない毎日を送っていることもあり、このところすっかりノンポリなブログになってしまっていますが、今回は自分の中では長年考えていたこと、かつ、ネット上で誰も書いていないことを述べた自己評価では「神回」です。
一人当たり名目GDPという指標がある。
これは世界各国のGDPを、ある時点の米ドルとの為替レートで換算して算出して比較するものなのでとても理解しやすい。
2020年のアメリカの一人当たり名目GDPは63,416ドルで、日本は40,146ドルなので、アメリカ人は日本人より一人当たり1.58倍の生産をし=支出して=所得を得ていることになる。
現在、1ドルを110円とした場合、アメリカ人と日本人の一人当たり名目GDPが同じになるためには1ドルを70円にすれば済む話である。
しかし、仮にそうなったとしたら今の日本の競争力では財・サービスを海外に売りづらいということもあるので、アベノミクスによる金融緩和政策で円安誘導されて現在に至っている。
仮に円安を誘導する金融緩和政策を続けるのを止めればずっとデフレ状態にある円の通貨価値は自然と上がっていくはずである。
もし、「安い日本解消!」と言うのであれば、金融緩和政策を止めて円高を誘導すれば「安い日本」はすぐにでも解消する。
現に民主党政権時には1ドルが70円台になり、日本は「安い国」から脱却したのだが、経済はボロボロになった。
もちろん、日本が「安い国」から抜け出すための真の課題は1ドル70円になっても売れる財・サービスを創造できる国になることだが、今の日本にそんな力はない。
一方でより実態に近い為替レートとして一人当たり購買力平価GDPという指標があり、この理論について調べ始めたらちょっと理解し難いぐらいに難しい内容となっているのだが、これはOECDや世界銀行が購買力平価説をもとに算出している。
俺はこの一人当たり購買力平価GDPとやらに強い懐疑心を持っている。
俺は、8年前にイギリスのマーサーという会社が「世界で最も生活費がかかる都市は東京」と論じた件を批判しているし、4年前にも英エコノミスト誌とフォーブス誌を同じ論調で批判しているのだが、コンサル会社に処理をされると日本の物価は世界屈指の高さという評価が下されることが多い。
それでありながら、少し前に中藤玲氏という方が「安いニッポン」という本を出版し、その謳い文句がキャッチーだったためにこうしたフレーズがもてはやされているようになったのだが、目次を見ただけで書いてあることの90%が想像つくのでこういう煽り本は読まないことにしている。
とはいえ、この本は日経新聞上での連載を書籍化したものらしい。
これまた煽りが好きな週刊ダイヤモンド誌は今週に「安すぎ日本」という特集をしているのだが、これはdマガジンで読めるページだけ読み流したのだけど、注目に値するようなことなことは何も書いていなかった。
実はこのような「安い日本」と煽る議論は一瞬で論破できる。
以下の表は2020年の各国の名目GDPと購買力平価GDP、そして名目GDPを購買力平価GDPで割ったものだ(単位は米ドル)。
これを見れば世界を代表する国際機関である世界銀行やOECDが下した購買力平価GDPの数値が一目でわかる。
順位 | 国名 | 名目 | 購買力 | 倍率 | 日本比 |
1位 | ルクセンブルク | 116,921 | 118,002 | 1.01 | 1.04 |
2位 | スイス | 86,849 | 72,874 | 0.84 | 1.25 |
3位 | アイルランド | 83,850 | 94,392 | 1.13 | 0.93 |
4位 | ノルウェー | 67,176 | 65,800 | 0.98 | 1.07 |
5位 | アメリカ | 63,416 | 63,416 | 1.00 | 1.05 |
6位 | デンマーク | 60,494 | 58,933 | 0.97 | 1.08 |
7位 | アイスランド | 59,634 | 55,966 | 0.94 | 1.12 |
8位 | シンガポール | 58,902 | 97,057 | 1.65 | 0.64 |
9位 | オーストラリア | 52,825 | 51,680 | 0.98 | 1.08 |
10位 | オランダ | 52,248 | 57,534 | 1.10 | 0.96 |
11位 | カタール | 52,144 | 93,508 | 1.79 | 0.59 |
12位 | スウェーデン | 51,796 | 54,146 | 1.05 | 1.01 |
13位 | フィンランド | 48,981 | 49,853 | 1.02 | 1.03 |
14位 | オーストリア | 48,154 | 55,218 | 1.15 | 0.92 |
15位 | 香港 | 46,753 | 59,520 | 1.27 | 0.83 |
16位 | ドイツ | 45,733 | 54,076 | 1.18 | 0.89 |
17位 | サンマリノ | 44,818 | 58,427 | 1.30 | 0.81 |
18位 | ベルギー | 44,529 | 51,096 | 1.15 | 0.92 |
19位 | イスラエル | 43,689 | 40,547 | 0.93 | 1.13 |
20位 | カナダ | 43,278 | 48,720 | 1.13 | 0.93 |
21位 | ニュージーランド | 41,127 | 42,018 | 1.02 | 1.03 |
22位 | イギリス | 40,406 | 44,117 | 1.09 | 0.96 |
23位 | 日本 | 40,146 | 42,248 | 1.05 | 1.00 |
24位 | フランス | 39,907 | 46,062 | 1.15 | 0.91 |
25位 | マカオ | 36,350 | 56,078 | 1.54 | 0.68 |
26位 | アラブ首長国連邦 | 31,982 | 58,753 | 1.84 | 0.57 |
27位 | 韓国 | 31,497 | 44,621 | 1.42 | 0.74 |
28位 | イタリア | 31,288 | 40,861 | 1.31 | 0.81 |
29位 | バハマ | 29,221 | 33,148 | 1.13 | 0.93 |
30位 | 台湾 | 28,306 | 55,724 | 1.97 | 0.53 |
もちろん、ドルベースなのでアメリカだけ倍率が1.00となっている。
日本の倍率は1.05倍なので、アメリカより1.05倍安いということになっている。
なお、日本を1.00とした場合の比についても物価基準もEXCELで計算して載せてみた。
これによると、アメリカの物価は日本の1.05倍、台湾の物価は日本の0.53倍、シンガポールの物価は日本の0.64倍、スイスの物価は日本の1.25倍となる。
イギリス・フランス・ドイツなどの物価は日本よりかなり安く、日本とスウェーデンの物価がほとんど同じということになっている。
そして、これらは俺が旅行しながら強い興味を持って現地で観察した感覚とは明らかに異なっている。
とはいえ、仮に「安い日本」と煽るならば最も用いられている国際統計の数字ぐらいは参照してから意見を述べるべきで、もし「日本のほうが安い」と断言するのであれば、世界銀行やOECDに「購買力平価の算出方法がおかしい」と主張するべき、もしくは、「現在の為替レートは安すぎだから円高を誘導すべし!」と叫ぶべきであろう。
なのに彼らは世界銀行やOECDに対して異議を申し立てていないだろうし、円高誘導後の経済戦略についての提案もないのだろう。
週刊ダイヤモンド誌はアベノミクスのリフレ政策を批判する論調を張りがちだし、財政再建派の野口悠紀雄氏や小黒一正氏らに意見を述べさせがちだが、同誌に納得のいく出口戦略が述べられているのを見たことがない。
ガツンとハードランディングを主張することもなく、毒にも薬にもならないことを書いて毎回適当に丸めて終わらせている。
そもそも新型コロナ禍の雇用調整助成金や特例加算ほどゾンビ企業の延命を図る低生産性維持策はないのだが、これを「世紀の愚策!公費で生産性の低いゾンビ企業の延命を図るな!」と叩くということもない。
「日本人の給料が安い!」と散々煽り、その根底には日本の解雇規制の強さと中小企業の多さがあるとわかっていながらも「解雇規制を緩和せよ!中小企業へのあらゆる優遇を止めろ!」という論陣を張ることはない。
「安い日本」と煽る論調を見ていて特に噴飯モノに思えるのは購買力平価GDPを用いて算出された生産性のデータを持ち出して日本の生産性の低さを論じるところなのだが、彼らはその激しい自己矛盾にすら気づいていないようだ。
個別に記事を作成しているだけで、全体で見ての論理矛盾に気づいていないのだろうと思う。
なお、デービッド・アトキンソン氏と出口治明氏はこの一人当たり購買力平価GDPをもとに全ての意見を組み立てていて、この指標に全幅の信頼を置いていると両者とも著作で述べているのだが、俺は彼らの述べる意見の大半に賛同しつつも、議論の根本を成すこの指標を信頼している点については賛同できない。
新型コロナ禍後のインバウンド復活が今のうちから恐ろしい日本だが、海外の人が来日して日本のサービスの価格と品質や丁寧さを加味したコスパの良さについて高く評価をしている文章や映像を目にすることが多い。
これは購買力平価GDPには含まれない価値が認められているということだし、我々はあたりまえのようにそれを享受しているということだろう。
日本の治安・社会秩序・水や空気の清浄さ・騒音の少なさ・トイレのきれいさ等も数値では表せないが、日本ではその種の不安がないので国外に出ないとそのありがたみを実感できない。
日本の野菜・果物・乳製品・新幹線・タクシー・高速道路・映画館・電気の料金の高さやお菓子などの量の少なさには納得がいかないこともあり、これらは日本の購買力平価GDPの係数を上げてしまう要素になっていると思うのだが、日本の停電頻度が世界でダントツに少ないことや新幹線の快適性や商品の品質などに思いを馳せると、コスパで考えれば十分ともいえる。
しまいには、「品質が高い割に安すぎる!」と叩く論調すら見受けるが、これは提供側の努力に対する敬意を欠いた行為であるともいえるし、正直、品質が高くて何が悪いのかとも思う。
「安い日本」論に対する批判はこれまで述べた通りなのだが、日本経済の最大の問題は日本だけ自国通貨ベースの一人当たりGDPが膨らまないことである。
GDPは総生産=総支出=総所得であり、この3要素の中の最も少ない額になる。
日本の場合、供給(生産)に対して常に需要(支出)が不足しているからデフレが続いて所得も伸び悩んでしまうわけで、政府が財政支出をし、日銀がいくら金融緩和政策を続けても企業と家庭が投資や消費にお金を投じることなく貯蓄に回すからGDPが増えないということになる。
貯蓄性向は下がっているものの個人金融資産は新型コロナ禍にあっても最高額を更新し続け、企業の内部留保も新型コロナ禍で防波堤の役割を果たしたものの高止まりしたままである。
煽り論では「高く売れ!」と叫ぶが、どれだけ高品質にしても高く売れないどころか買ってくれない社会だから困っているのであり、「給料が安い!」とも叫ぶが、給料が安くても働く人がおり、足りなくなると海外から労働力を連れてくるから上がらないのである。
「将来が不安でお金を貯めておかないと不安」「でも、設備投資や株式投資をして元本が減るのは嫌」と多くの人が考えていて、さらにデフレが続いて持っている円の価値がずっと毀損しないものだから、消費をせずにゼロ金利でも貯め込み、その結果、全員の生産=支出=所得が増えない。
また、新型コロナ禍における世の中の様子を見ていて、日本人の圧倒的な「不安病」は高齢少子化人口減閉塞社会が招いたガチの病気だわな…という諦観を得るに至った。
俺個人も現状に大満足だし、欲しいものが何もないから何も買わないだけなのだが、もしかしたら日本人の多くは、消費欲の強い世界中の人々と違って現状に満足してしまって消費欲が無くなってしまっているのかもしれない…とも思う。
買わない人に売るのはしんどいわなあ…。
浜離宮庭園にはキバナコスモス。こういうものを見ると幸せはお金ではないものからより得られるな…と実感する
家の上空にブルーインパルスが飛ぶが、これはパラリンピック開幕の前々日の予行演習
ほぼ真上を飛んで行った
本番の日も3色煙を出して飛んだのだが、空の色と同化してどうしてもスマホのピントが合わず。大勢の見物客を横目に撮る
パラリンピックの開会式に橋に色が戻った。パラリンピックの開会式にはものすごく感動した。涙が出そうになった。オリンピックの開会式の100倍良かった