年始からゴーン氏の逃亡だとか、アメリカによるソレイマニ氏殺害といった驚きのニュースが飛び込んできて、「今年も波乱の幕開けじゃのう…」と思っていたのだが、今となってはこれらはかわいいニュースだったのだと思い知らされる。
新型コロナウイルスはSARSやMERSのように重篤化しにくいようだから、感染しても酷い目に遭う程度で済むのかなと思っていたのだが、どうやらとんでもなく感染しやすいということがわかり、潜伏期間も長ければ症状が長引くということもわかった。
政府には感染を防ぐことと経済の減速やそれによる企業の倒産などを抑えることという相克する問題への対処が求められているのだが、後者のダメージが相当大きなものになるであろうことは誰にも想像がつく。
また、人命や健康と天秤にかけられれば何をするにせよバランスを取るのが相当に難しいだろうと思う。
中国国内では独裁国家だからこそ可能なレベルの封鎖・閉鎖・外出禁止といった策を打っているが、中国政府の発表によると本日現在、中国国内で死者が1,868人いて、感染した人も72,436人いるようである。
同時に治療を終えて退院した患者がこれまでに12,552人いることも発表されている。
中国の感染者数を見せられなくてもクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染の拡散ぶりを見ると感染力のすさまじさがわかる。
船内から早く降ろして地上の施設に収容した場合と、船内に閉じ込めて隔離した場合のどちらでより感染が拡大したのかという問いに関しては、今後の検証と総括が求められるとはいえ、おそらくは船内に閉じ込めたことによってより早く広がったということは否定し辛いのではなかろうかと思う。
とはいえ、これを批判して何もせずに済ませるのではなく、今後、同様の事例が起きた場合に大量の人を迅速に隔離して感染を広げることなく収容できるような施設を用意できる態勢を整えるということにつなげて欲しいと思う。
ところで、乗客や言論界からは「検査をやって陰性のお墨付きが欲しい」というような意見が散見されたが、季節性インフルエンザにせよ新型コロナウイルスにせよ、もっともやっかいな問題はいかんせん検査の精度が低いという点にあり、偽陰性の人が「俺、陰性でした~」と言って悪気なく放たれることによって拡散するということが繰り返される以上、一定期間隔離する以外にないのだろうと思う。
とにもかくにも、船内か地上の施設かという問題と隔離の必要・不必要のの有無という要素は別の問いと考えるべきだろうと思う。
まあ、「ダイヤモンド・プリンセス」に関しては、「アメリカの会社が運航するイギリス船籍の船だし、アメリカや香港や他国から痛烈に対応を批判され、かつ、感染のリスクを国内に持ち込むことになるのだからいっそのこと追い払って着岸させないという手があったかな…」というのはもちろん冗談ではあるが、かといって全くそう思わなかったというわけでもない。
我が家は隅田川沿いにあるので家から船が良く見えるのだが、屋形船で感染が確認されて以降、屋形船を全く見なくなった。
経済的な被害は相当なものだろうと思う。
インバウンド消費がGDPに占める割合は1%しかないのだが、4%を占める国内客の観光消費が低迷することによる観光産業に与えるダメージは大きく、また、それよりも内需全般や貿易取引および所得収支全般が大きく減少することによる経済へのダメージは計り知れない。
先週末に銀座に行ったら思いのほか賑わっていたので安心したが、今になって急に厚生労働省が「不要不急の外出は控えて」と言ってしまうぐらいなので、余計に心配になる。
同時に加藤勝信厚生労働大臣が「大規模イベント開催は主催者判断で」と述べたが、東京マラソンの一般ランナーの参加は中止となった。
より激しく濃厚密着する岩手県奥州市の黒石寺蘇民祭や岡山市の西大寺の1万人が参加する裸祭りは行われたのだからまさに主催者判断といえる。
考えるだけで暗い気分になってしまう新型コロナウイルス騒動だが、災いのなかにも今後、以下のような奇貨が得られればいいなと思う。
- 感染しやすく、かつ、重篤な症状に陥る感染症を効果的に防ぐための体制の整備や施設の用意がなされること。
- 手洗いや咳エチケットや予防接種の浸透によって季節性インフルエンザなどにおける国民の予防レベルが格段に向上すること。
- 熱が出たら必ず会社を休む、熱が出た状態での出勤は禁ずる、それを迷惑行為とみなすという社会的コンセンサスがより強化されること。
- 病欠によって顧客に不都合を与えても仕方ないし、そのような場合、顧客は我慢すべきであるという強い社会的コンセンサスができること。
- 在宅勤務や時差勤務が広がり、できれば標準になること。
もし、これらのことが浸透したならば長期的な観点でどれだけ社会が良い方向に進むことになるだろうかと思う。
また、人々が新型コロナウイルスを怖れるがあまり、結果として季節性インフルエンザの死者数がかなり抑えられたということになればとてもすばらしいと思う。
ところで、新型コロナウイルス感染症によって心底困っているうえ、国際的にも四面楚歌状態にある中国だが、驚いたことに中国内では日本は味方をしてくれているというステキな誤解が生じたりもしているようである。
日本政府が国賓待遇を控えるなかでなかなか決めきれない間に他国が強硬な手を打ち、結果として日本が残ってしまったという側面と、中国当局が味方をしてくれているとみなす他国の存在を必要としていて、その対象として習近平氏の国賓としての訪問を控える日本を選んだという面があったのだろうと思う。
しかし、言うまでもなく、各種世論調査では安定して8割以上の日本人が中国にネガティブな感情を持ち続けており、その比率は対韓国の比ではない。
また、中国人全般に非があるというわけではないし、怒るべき矛先は中国人全員ではないのだが、以下のような理由でさらに日本人の中国に対する負の感情が膨らむのではないかと想像できるわけである。
- そもそも、また中国から感染症が発生したが、健康や経済へのダメージがあまりにも大きすぎる。
- 人権上の問題ということで中国人の日本への渡航を禁じていないのに、クルーズ船の乗客は感染が蔓延する船内に留め置かれたわけだが、乗客は耐え難い気持ちになっただろうと思う。
- また、東京マラソン中止に際して参加費は戻って来ないらしく、来年順延参加する場合でも別途参加費を取られるらしいが、中国人の順延参加者に関しては参加費免除になるそうで、日本人の参加者は耐え難い気持ちになっただろうと思う。
他にも挙げていけばキリがないと思う。
しかし、中国人が日本に対してステキな誤解をしてくれたことによって今後得られる国益はそれなりに大きなものとなるのではないかとも思うわけで、これは思わぬ奇貨となることになるのかもしれないと思う。
【2020年2月20日追記】
東京マラソンの中国人の順延参加者からも参加費を取るよう方針を変更したと20日に発表されました。
【2020年4月1日追記】
この時点での自分の考えは甘かったなと後日にとことん思い知りました。
先週末の銀座の様子。中国語を話す人は少なかったが思いがけず人が多かった