GOODDAYS 東京仙人生活

ひっそりと静かに生きる47歳仙人のつぶやき

日本の終身雇用制度と自由について

需要と供給だとか、生産性だとか、移民といった内容について次回以降に触れたいのだが、その前提として、ごくごくわかり切っていることではあるが、日本の終身雇用制度について思うことを書いておこうと思ったので、以下に長々と述べる。

 

日本における多くの大卒者はたまたま受かった大学・学部に入り、たまたま受かった会社に入社する。

会社は主に大学入学試験の偏差値に基づいて新卒社員の採用を行う。

それなりのスペックの脳で辛い受験勉強を乗り越えたという「体力測定」の結果といえる偏差値でスクリーニングされ、あとは、必要に応じて英語力や資格のチェックをする以外は、採用面接でヤバいヤツではないか、輪を乱す生意気なヤツではないか、ちゃんとコミュニケーションが取れるいいヤツかといった程度のチェックをして採用する。

ペーパーテストの成績は概して女性のほうが良いが、産休・育休、果ては将来の子供の病気時における休みに伴う会社側のコストやロスを考えると暗黙の了解として男性を優遇せざるを得なくなる。

 

会社は新卒社員が大学で勉強したスキルを会社で発揮することになど期待していない。

勉強なんか一切せずにスポーツ漬けで過ごしたほうが圧倒的に就職に有利になるぐらいに期待されていない。

「体力測定」の結果というポテンシャルで採用され、かつ、職種での採用はされていないので、入社後に会社が職種を決め、配置転換転勤も会社の意図で決定する。

限定条件での採用ではないため、これらを断る権利はなく、それを違反とする判例もない。

転勤ともなれば、夫婦のどちらかが仕事を辞めるか、もしくは別居するかという人生の大選択を迫られるので、欧米企業での転勤はエグゼクティブクラス中心だが、日本企業は末端社員であっても一顧だにせずに転勤を命じる。

 

また、欧米の企業にあるようなジョブ・ディスクリプションがなく、会社が職種を決めるので、自分の望んだキャリア形成ができない、もしくはキャリア形成は運任せとなる。

とはいえ、学生の就職人気ランキングのピンボケぶりを見てわかる通り、学生も社会のことなんぞまるでわかっていないのだから、多くの学生にとってはそれでも構わないのかもしれないのではあるが…。

 

俺は新卒時にマーケティングなるものをやってみたくて、マーケティングリサーチ会社に入ったつもりが、希望のマーケティングの部署ではなく、リサーチの部署である世論調査・交通調査を行う部署に配属となった。

上司に理由を聞いたら、「キックボクシングの学生チャンピオンなんだって!体力がありそうだからマークしてたよ。うちの部署は体力いるから」という理由だった。

どこに配属されるかがわからないのが嫌で大企業への入社を回避したのに、「やりたいことをやるために中小企業を選んだのに履歴書の志望動機は無視かよ!」と腹が立ったのを覚えている。

同じく、入社直後に転勤になって激怒した同僚は「東北出身で根性ありそうだから」という理由で名古屋に飛ばされたが心から同情した。

ついでに言えば彼は既に退職しているがそのまま名古屋に残った。

 

社会科が大好きなので仕事はものすごく楽しかったが、希望した職種ではないという想いは常に持ち続けたまま4年半後に退職した。

あらゆる折衝術やトラブル対処から役所に提出する報告書の書き方から、マニュアルの4トントラックの首都高での運転経験などなどまでを考えると、確実に人生で最も勉強になった4年半であったが、やはり自分で選んだ仕事をしていないというのは自律的な人生とはいえないと思ったことが仕事を辞めた大きな理由であった。

そんなこと言って、その後3年半ひたすら遊び惚けていたのだけど…。

 

これは余談だが、俺は大学の第二外国語でどうしても中国語を専攻したかったのに、大学の意向で無理やりドイツ語にさせられた。

ドイツ語のクラスになったおかげで今もつき合うかげがえのない友人を得たわけだし、まだこれが法学部における第二外国語だから良かったけど、外国語大学で専攻する言語が希望通りにならなかったり、文学部に入って希望しない学科に回された友人を知っているが、目も当てられないよなあと思った。

そして、新卒で入った会社で希望していない職種に就くことは大学で希望しないことを勉強することよりもしんどいことだともいえる。

また、数年ごとに持ち場が転々とするような仕事は、自律か他律かを常に自問自答し続ける俺には耐えられない。

 

日本社会が成熟し、多くの企業の社長が創業者ではなく、プロパーのサラリーマン社長もしくはプロ経営者になっているが、特にプロパーのサラリーマン社長の能力が創業者に対して圧倒的に劣っていることは日本の国際競争力が落ちている大きな原因となっている気がしている。

企業の不祥事のレベルの低さや企業戦略のちぐはぐさを見るに、トップ人材の劣化、もしくは団塊世代の人材のダメさといったような要素が理由となっているのではないかとデータも集めずに主観で思ったりしているのだが、日本の企業において新卒プロパー社員が常に出世街道のトップを走っているというのは疑いようのない事実である。

俺は15年前に辞めた会社の同期といまだに年賀状のやり取りをしているが、同期で団結できるのは新卒プロパーの社員の大きな利点だし、新卒プロパー社員は個々に入る中途入社の年上の人間に対して憶することすらない。

新卒で入った優良企業で働き続けることは高収入への最短の道となる。

 

したがって、多くの人にとって、新卒・もしくは第二新卒で入った会社を辞めることは生涯年収が下がる大きな要因となる。

それでも、再就職できれば良いが、大抵はプロパー組よりも年収を抑えられる。

また、日本社会において、社外にて自助努力で学習する語学・IT・会計・経営学等のスキルは努力ほどには再就職を有利なものにしない。

むしろ、一流企業に勤めていた=一流企業に採用されたことがあるという実績のほうが再就職時に余程有利に働く。

そして、運良くスキルを身につける機会を得ない限り、35歳以降に高めの年収の正社員で再就職できる道はない。

もし、会社を辞めて年収を上げられるという人がいたとしたら相当に立派なことだと思う。

正社員での再就職が上手くいかない場合、非正規社員になるが、正社員より所得・育休・解雇ルール等の権利において圧倒的に不利になる。

日本社会は中高年男性が中心をなす高年齢・高所得の正社員の既得権を保持するために、他の層の労働者が割を食う社会構造になっている。

 

しかし、日本の終身雇用制度における勝ち組であるプロパー社員にとって会社を辞めるということは、人生設計の崩壊を迫られるほどのインパクトがあるため、彼らは会社に従属せざるを得なくなる。

そして、日本の判例では正社員をクビにできないので、定年まで居座り続けることができる。

もちろん、正社員でも短時間労働で済み、自分が選んだ職種の仕事をして、納得のいく給与を得られて、納得のいく成績を収められて、人間関係のストレスもなく、会社の将来性もあるという勝ち組もいると思うが、そのような人は何の問題もない。

しかし、仕事量が変わらず、求められる質も変わらないのに、労働時間だけを減らせと無茶苦茶なことを言われても、辞めるというカードを切れない以上、それを飲まざるを得ず、また、持ち帰りは違反とされているのにも関わらず、勝手に持ち帰って仕事をするというようなドMな忖度を生み出しかねない側面もある。

なんだかんだ言ったところで、辞めないとわかっている相手ほど扱いやすい存在はなく、簡単に辞めるかもしれない人間ほど扱いづらい存在はないのである。

 

それに対して、いつでも辞められて、いつでも働けるスキルを持つことは自由への道となるのだが、会社の駒として使われて、本人の意向に沿ったキャリア形成をし辛く、社外での自助努力への正当な評価を得られにくい日本社会において勝間和代氏がおっしゃるところの「インディペンデント」な存在になるのはなかなか難しい。

仮に、フリーランスというインディペンデントな存在になったとしても、「お客様は神様」の日本社会において、発注側の社員に顎で使われてしまったり、無茶を言われたりするのだとしたら、安定した社内従属者を脱して、不安定な社外従属者になっただけという話になってしまう。

 

ジョブ・ディスクリプションによって職務内容が規定されることで、自分の望むキャリア形成ができ、大学やビジネススクールでの学習や社外での自助努力が客観的に評価されやすい欧米企業は転職しやすく、フェアな能力評価をする社会だし、年功序列ではなく、年齢で給与に違いがないので高年齢の経験者ほど採用されやすいが、常にクビになるリスクがつきまとい、ほとんど社外で勉強しない日本人と違ってキャリアアップのために勉強し続けることを余儀なくされる。

しかし、転職をしやすい社会発注者と受注者が対等な社会というのは会社に従属しなくても良い社会である。

そして、日本社会がそういった社会に移行しない限り、人々が従属的な働き方から脱することができず、人々の心が自由になることはないのである。

もしくは、所得のボトムアップによって多くの人々を従属的な働き方から解放する方法もなくはないのだが、それについては次回以降に述べていく。

 

現在の社会状況において従属的な状況を脱して自由になるならば、転職しても給与を減らさずに済む仕事をしているか、資格労働や卓越したスキルを持ってインディペンデントな存在になるか、我慢はしなくて良いけど低所得な労働および生活に甘んじるか、ロバート・キヨサキ氏が述べるところのラットレースから脱して不労所得で生活するかしか存在しないわけで、多くの人には当てはまりにくいのが困ったところでもある。

 

そういうわけで、終身雇用制度下における日本社会における勝ち組といえる正社員ですら従属者である限りは幸せにはなり辛いと思うのだが、ここまで言うのは言い過ぎだろうか。

 

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台風一過の隅田川を花火を積んだ船が上っていく

 

勝どきから見るより大きいかもと思って佃まで歩いて行って隅田川花火を見たが、佃からでもめちゃくちゃ小さかったっす。もう行かないっす