GOODDAYS 東京仙人生活

ひっそりと静かに生きる47歳仙人のつぶやき

橘玲氏の煽りに深く感謝

橘玲氏の著書は数多く読んでいる。

多くの読書をして、鋭い視点でそのエッセンスをまとめてくれるありがたいお方である。 

立ち読みしかしていないので読み込めていないのだが、前に出版された「専業主婦は2億円損をする」は、氏が「幸福の『資本論』」にて述べた内容を引っ張り出して追記したような内容となっていて、これは、出版側から「こういった内容で書いてくれ」と持ち掛けられた企画のようであった。

これまではご自分が書きたいことを書いておられた気がしたのだが、この本の経緯も内容も氏らしくないと思った。


しかし、今の目まぐるしい世の中というのはとかくわかりやすいものを求めているため、この本は大ヒットとなったようで、それからは氏がこの種の啓蒙の文章を書いておられるのを度々目にするようになった。

引きが多いのであろうと勝手に想像する。

 

僕は誰からも評価されずに好き勝手に書けるアマチュアリズムを最高に楽しんでいるが、プロは金銭と引き換えに、書く内容を限定され、評価にも晒されるから大変だな、気楽じゃないなと同情する。

 

そして、僕もプロに対してこうして意見を述べる。


以下、dマガジンでも読める日経ビジネスアソシエ3月号の橘玲氏の56ページのコーナーにあった文章を引用し、その後に僕の意見を述べる。

引用量は多いが、これまで橘玲氏の本をKindle等で何冊も購入しているのでご容赦いただきたく思う。

 

人生100年時代」が突きつける現実に、欧米はもう気づき始めています。
米国では1990年代まで、どのライフプランニング本にも「マイホームを買い、地方なら50万ドル、都市部なら100万ドル貯めてアーリーリタイアメントしよう」と書いてありました。
しかし今では、早期リタイアを勧める本はありません。

中略

欧米のリベラルな社会では、「人はそれぞれ自分だけの可能性を持って生まれてきた」という前提に立ち、「自分の可能性を100%生かして働ける社会が理想」と見なされるようになりました。

中略

スウェーデンデンマークはあらゆる指標で「世界で最も幸福な国」とされていますが、「社会に何らかの貢献をしている市民だけが社会から恩恵を受けられる」という発想が徹底された国でもあります。
「社会への貢献」で最も分かりやすいのが「働いて税金を納めること」で、裏返せば「働かないと“差別”される社会」でもあります。
80歳になって「さすがに現役を引退」となっても、「今後は福祉施設でボランティアしたい」と説明しないと皆が納得しない雰囲気ですから。

「自由と自己責任」という北欧発の価値観は、近隣の欧州諸国や米国にじわじわと浸透しています。
趣味嗜好や考え方が多様な「豊かな社会」では、これ以外に誰もが納得できる最大公約数的な社会通念はないからでしょう。
日本は例によって世界のトレンドから半周以上遅れていますが、今後、欧米に倣う形で価値観が変化していくのは間違いありません。

 

「欧米」という言葉でひとくくりにする文章は注意深く見る必要があるが、橘氏の指摘する価値観は欧米全体の価値観とは思えない。

旅行が大好きな橘玲氏らしくない言葉選びである。

また、「今では、早期リタイアを勧める本はありません」「日本は例によって世界のトレンドから半周以上遅れていますが」「働かないと“差別”される社会」というくだりは断定が過ぎるように思う。

 

そして、今回の橘氏のご意見に対する僕の意見は以下のようなものである。

 

  • 僕には、たとえ、「専業主婦は2億円損」していようと、それぞれの内心にプラス面とマイナス面があるのだから専業主婦のほうが不幸とは断定できないし、子育てをして働く女性を見ると余計にそう思う。
    また、そもそも論として、「豊かな現代社会にこんなに多くの労働が必要なのか?」という疑問も常に挙がっている。

  • 橘氏はここでは、「働かないと“差別”される社会」を「世界で最も幸福な国」と挙げておられるが、僕の手元にある橘氏の著書の「バカが多いのには理由がある」の「素晴らしき強制労働社会」の項においては、北欧社会が強制労働社会であることや、日本の労働組合幹部の視察者が帰国後に「北欧型の福祉社会を」と一切言わなくなった旨について言及されている。

  • 北欧を旅して、気候と税率のことを考えたら僕は北欧には住みたくないと思ったが、彼らはあの気候税率刺激のなさで「世界で最も幸福な国」と思うのだからそのポジティブさに驚嘆する。
    ネガティブな日本人には絶対ムリである。
    僕が北欧の人間だったらカネを貯めてとっととタイに行く。

  • 自分が人生にとっては、自分が自分をどう認めるかという主観が大切なのであり、橘氏がおっしゃる文脈上での“差別”について考えることは雑念のようなものだと思う。

 
でも、できるだけ多くの人が働いて・消費して・納税してくれるのはありがたいから橘氏の煽りには深く感謝する。

どんどん、このロジックで世間をリードして欲しい。

 

ところで、バブルの最中に中野孝次先生が著された「清貧の思想」を読んだならば、どういった人生が最も高尚であるかということについてどこまでも深く考えることができ、それに比べると橘玲氏のロジックは“遅れて”いる気すらする。

 

ちなみに、同様の理由で、「人生100年」のロジックもありがたいが、明日は祖母の100歳の誕生日である。

それにしても、「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」や「マネーロンダリング」を書いてらっしゃった頃とはおっしゃることが変わったなあと思うが、長寿化と課税ルールの厳格化と課税当局の捕捉力が増したからですかねえ…。

 

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