GOODDAYS 東京仙人生活

ひっそりと静かに生きる47歳仙人のつぶやき

リフレ政策の効果と不安について③

 

付利をどうするのかという大問題 

日本のインフレ目標が達成して、オーバーシュート型コミットメントをしている通りに十分に状況が安定し、好景気になり、引き締め・利上げの時期に転じた際に本当の問題が起こるとされる。

なお、日銀は出口戦略については「時期尚早」としてコメントをしていない。

 

前回述べた通り、引き締め・利上げ局面になると、銀行の日銀当座預金への付利をどうするかが問題となる。

 

景気の加熱を防ぐために短期金利を2%程度まで上げようとするならば、コールレート水準の付利を支払う必要があり、その際に国債切り替えに伴う過渡的な現象ではあるものの、日銀に相当な逆ザヤ損失が発生してしまうことが想定される。(参考①参考②参考③

これによって、日銀から国へ還流するはずの国庫返納金がなくなることはおろか、日銀の自己資本金の8.1兆円はすぐに吹き飛んで債務超過に陥ってしまうことが考えられる。

 

そもそも付利は2008年11月に導入されたものなのだが、これに対して、「日銀が増資をして国が引き受ければ良い」だとか、「『中央銀行の貸出金利>短期市場金利>中央銀行当座預金への付利』だから大丈夫という意見がある。

いずれにせよ、銀行と利害が相克する面が強いため、日銀にとっては銀行の経営状況も考えたコントロールが必要となる。

なお、日銀も詳細は明らかにはしないものの腹案はあるとは述べている。

 

また、高橋氏は「マイナス金利の真相」の185ページで、「インフレ率が上昇する兆しがみえても国債残高を維持したまま、名目GDPが上がるのを待つという戦略であろう。」「ものすごいインフレが起きれば、金融引き締めのために、国債売却をするだろうが、そうした事態は、当面考えにくい。そのうち、名目GDPが大きくなって、日銀の保有国債の規模もそれほど目立たなくなるだろう。」と述べておられる。

余談だが、明治18年の1885年と2010年を比べると、名目GDPは61万倍、中央政府の負債は114万倍となっており、デフレ時代だけでは想像しづらいが、高橋氏が述べるところの名目GDPの増加による希薄効果とはこういうことを言っておられるのだと思う。

 

インフレターゲット論者がそもそも唱えている政府紙幣無利子国債ヘリコプターマネーといった相当に強烈なものも含め、いろんな対策案が出ているわけだが、何といっても日本国債は自国通貨建であり、インフレになっても破滅的なところまでいくとは思わない。

しかし、日銀が出口戦略においてきちんとハンドリングをしきれるかどうかに日本の命運がかかっているともいえると思う。

 

日銀は過去に、アメリカの圧力に屈してバブル中に利上げをできず、バブル崩壊前後に利上げを断行し、かつ、マスコミなどもそれを支持して、それらのミスがその後の30年間に大きくのしかかることとなったのだが、後で言うのは簡単ではあるものの、利上げの判断というのは本当に難しいように思う。 

  

実質的な引き締め策として絶大な効力を期待できる消費税増税

ここからは個人的な案なのだが、インフレ率2%を達成し、インフレが進みそうになれば、金融引き締めでコントロールしようとせず=付利は上げず、いずれは上げる必要のある消費税率を待ってましたとばかりに上げまくれば実質的な引き締めになり、需要およびインフレを抑制でき、かつ、必要な増税をやってしまえるのではないかと思っている。

これに関しては僕のオリジナルの意見、かつ、国会と政府と日銀というそれぞれ独立した権力の一糸乱れぬ連携が前提となるがどうだろうか。

このように強引なかたちで低金利政策を続けた場合に他国の利上げ局面の際に他国との金利差が広がることにより円安になるという懸念もあるが、これはむしろ懸念とするのではなくチャンスととらえてそれを活かして好景気を目指して欲しいものである。

 

なお、中央銀行のバランスシートを異常に膨らませて国債を買い入れて財政問題を一気に軽くできるというのであれば、何故に他の国では財政規律を重視するのかという意見はあると思うが、それについては僕も確かにそうだとは思う。

リーマンショック以降、FRBやECBも大規模な金融緩和政策を取ったのは事実であり、バランスシートを大きくしたが、日本ほどに財政規律が緩んでいるかと言われれば日本ほどではない。

しかし、PIIGSの国々と日本ではあまりに基礎的な条件が違うというのも事実である。

 

まず、日本はEUと違って独立した中央銀行通貨発行権を持っており、日本国債自国通貨建てであり、日本の国債のほとんどは国内で消化しており、国民負担率が欧州より低めで消費税の増税余地も十分にあり、この4点が他国とあまりにも違う基礎的な条件となる。

特に、誰かが借りたカネは必ず誰かが貸したカネなので国内消化かどうかは決定的に重要な条件となる。

それに輪をかけるかたちで、日本は海外からの配当や金利収入の所得収支が年に20兆円に迫るほどの巨額の経常黒字国であり、350兆円におよぶ世界一の対外純資産を有してもいる。

仮に日本政府を破綻させる場合は、その前に日本政府が保有する大量の米国債を先に処分しなくてはならず、それによっては、アメリカ政府のほうが先に破綻するし、処分すればアメリカ市場の大暴落が確実に起こることは橋本発言を思い出しても簡単に想像がつく。

また、日本ほどに長期間のデフレに見舞われた国はなく、何をやってもデフレが解決しなければ、2月2日に7ヵ月ぶりに指値オペが実施されるなど見通しが変わっていくかもしれないものの、イールドカーブコントロールによって10年債利回りを世界最低の0%から0.1%内にほぼ固定されているなど、他国とはデフレの度合いが違うのかなとも思う。

 

また、ハイパーインフレとまでは言わなくても、危機的なインフレというのは過去の事例、日本の場合だと敗戦直後などがそれに該当するが、圧倒的なモノ不足・外国からの多額の借金・輸出する商品が何もないといった基礎的な国力の不足という条件無しには起こらず、また、モノ余り・需要不足・貯蓄過大が慢性化している日本では余計に起こりにくいのではないかと思っている。

なお、一時的に信用不安で円の通貨価値が毀損したとした場合、円安になるために輸入物価が上がって多少のモノ不足やインフレになることはあるかもしれないが、日本のように基礎的な国力、特に人的資本が高い国において、仮に1ドル200円などといった大幅な円安になったらものすごく好景気になると思うので、ハイパーインフレ論になるとは思えない。

デフレは供給に需要が追いついていないことから生まれ、インフレは需要に供給が追いつかない時に起こるが、日本のように供給力が高い、海外に売れる商品を持つ国力の高い国がハイパーインフレなるとは考えにくいのである。

 

こういったことを、持ち家以外の資産をほぼ外貨で持っている僕が言うのにはおかしな話なのだが…。 

 

今シリーズのまとめ

銀行の利益の逼迫だとか、円安誘導による損失などといった各論は別として、総論としてのアベノミクスの金融政策の果実と心配点は以下のことかと思う。

 

果実としては、景気の上昇・失業率の低下・インフレ率の上昇・再び市中に出さない限りにおいての国債の棒引きが挙げられ、何といってもデフレから脱却をしないと30年近く続く不況から本当の意味で脱却できないと思う。

 

心配点としては、日銀の債務超過への不安・インフレ目標達成後のコントロールの未知数さへの不安が挙げられ、これは小さなものであるとは言い難い。

そして、個人的にはこれは消費税増税でコントロールできるのではないかと思っている。

 

確かに心配はあるのだが、もし、デフレから脱却できるとすればその果実があまりに大きいので、デフレを脱却できるのであれば僕は総合的にはリフレ政策を支持したいと思う。

この立場を自分なりに固めるために、頭が悪いこともあって「あーでもないこーでもない」と断続的にとはいえ数年間は思案したが、アマチュア・無名で気楽な僕でも支持か不支持かを決めるのにこれだけの勇気が要るのだから、どちらの立場に立つにせよ、プロ・有名な方々がどんな思いで自分の考えを表明しているかと思うとその覚悟に恐れ入ってしまう。

 

現代の国家機構というのはあまりにも複雑怪奇で、基礎資料の情報開示がなされているとはいえども、さまざまな内情を含めた確かな一次情報に逐一アクセスするのは難儀だろうし、諸条件があまりに複雑系であり、それでも何らかのかたちで論をまとめて意見にしておられると思うのだが、結果として間違いがわかってしまえばアイデンティティの崩壊ないし自己否定にすらつながるわけで、まるで真剣で対峙するかのように真剣じゃないとできんことだわなと思う。

まあ、中谷巌氏のように考えを180度転向した方もいらっしゃるが…。

 

そして、何よりも、これまで非主流派とされ、これほどまでにコントロール法が未知数で、国民生活への影響の大きな政策を取っている当事者の黒田総裁や日銀審議委員の方々や安倍首相の心労や如何ほどにと思う。