全体の感想
私は全日本キック時代から佐藤選手のファンだが、MAXというイベントが魔裟斗選手人気で遠心力を維持しているのも事実で、また、佐藤選手のキャラクターがMAXを支えられるほどに世間から認知されているわけではなく、佐藤選手が勝ってしまうことへの危惧も少々といった状況で観戦。
正直、肉体的にも技術的にもコンプリートファイターに成長しきった魔裟斗選手ののびしろより、やっと肉体改造に本格的に取り組み、パンチにも新境地を見出した佐藤選手ののびしろのほうがあることは間違いないので、魔裟斗選手が負けてしまった場合、逆のパターンに比べて救いがない面もあると思いつつ、でも、佐藤選手には負けて欲しくなく、どちらにしてもこの試合が佐藤選手の存在感を世間に知らしめるのに役立って欲しいと複雑な気持ちを抱く。
普段ブログで人間性がわかっていることもあるが、佐藤選手がとてもいい人であろうことは想像に難くないのに、プライベートの魔裟斗選手なんてのは話題も合わなそうだし、機嫌にムラがありそうだしで、全く関わりたい人種とは思えず、先日結婚したことに対しても「奥さん偉い!」としか思えなかったぐらいだが、確かにスマートなのに純粋で誰よりもストイックかつプロフェッショナルに徹するキャラクターや毎回期待を裏切らないアグレッシブかつムラのない安定した試合運びが一般層から支持される理由もよくわかる。
しかしながら、元来、首相撲とヒジがダントツで得意な佐藤選手が一時はブアカーオにコテンパンにやられつつも、よくよくこのルールでリベンジに成功してここまできたものだと思う。
1Rは魔裟斗選手がパンチ、佐藤選手がヒザを軸に攻撃を仕掛けた。
採点は両者満点だったが、パンチと比べるとヒザは地味だし、ダメージも見えないのでどちらかといえば魔裟斗選手ペースで進んだ。
でも、ヒザは地味に効いていたりするものだし、実際に佐藤選手と試合した複数の選手に聞くに、全員がヒザがかなりやっかいと言っていたからヒザのダメージは未知数。
この時点で、「勝負はブアカーオ戦と同じく、佐藤選手のパンチが入りだすかにかかっているな。長いリーチから繰り出される遠心力の乗ったパンチが想定外に延びてきて当たると倒れちゃうよ。これだけ手数が多いとスキも多くできるわけだし…」と一緒に見ていた相手につぶやく俺。
魔裟斗選手の弱点はその圧倒的な手数ゆえに必然的にガードにスキが生じてしまう点にある。
そして、やっぱり佐藤選手を心から応援している自分を発見する。
2Rは魔裟斗選手のコンビネーションが入り、魔裟斗選手がポイントを取った。
1Rとのあわせ技で1ポイントを取った感じか…。
佐藤選手のジャブも当たっていて効いてはいるのだろうがさすがに地味か…。
3Rは佐藤選手がパンチで応戦し、ストレートで鮮烈なダウンを奪う。
この時点で勝負ありと思うが、勝負をあきらめずに果敢に攻撃する魔裟斗選手の姿勢は立派。
あとでビデオを振り返るに佐藤選手もどこかこの後は流していたようにも思う。
とはいえ、確かに攻勢ではあったものの、普通に考えて魔裟斗選手以外の選手が同様の戦いをみせた場合に9-8になるとはとても思えず、ジャッジも仏心を出してしまったように思う。
議論は色々あるし、このジャッジで妥当という人も多いだろうが、やはりあのダウンがフラッシュダウンでなく完全なダウンであることを加味するに9-8というジャッジは汚いとまでは言わずとも魔裟斗選手寄りであることは間違いなかろう。
延長Rは勝ちを覆された佐藤選手の気持ちが少し切れているように感じたし、その気持ちも痛いほどわかる。
この上なく一生懸命やっていても、どこか切れてしまったモノを取り戻すのは難しいはずだ。
ダウンを取られても果敢に打ち合う魔裟斗選手、パンチが得意な相手にパンチで真っ向から打ち合った佐藤選手、両者とも死中に活を見出す姿勢は立派だった。
そして、この結果も、素直に負けを認めた姿勢も佐藤選手にとってこの上ない追い風となったはずだ。
ブアカーオ選手に殊勲のKO勝ちをし、今回のすばらしい試合が終わったばかりの佐藤選手に言うには酷だが、今回の大貯金を次戦以降にどう生かすかが、今後、一般層から支持を得られるかの分かれ目となるのであろう。
一昨年にあった亀田興毅選手とランダエタ選手の試合の場合、初回に鮮烈なダウンを喫しながらも、その他の残りRの多くで着実にポイントを重ね続けたため、私のジャッジでは亀田選手の勝ちでフツーに納得だったのに、世間の批判はすごかった。
でも、この試合の場合、12Rあるボクシングと違って、残りRが全くなかったため、私のジャッジでは佐藤選手の勝ちだったように思うのに魔裟斗選手への批判は全くなく、ジャッジへの批判もそれほど聞かれない。
決勝でもキシェンコ選手から魔裟斗選手は危なめのダウンを取られる。
また、後で映像を振り返るにその他の場面でも有効打の数もさほど変わらずであったのだが、前に出るアグレッシブな姿勢と、攻勢を演出する雰囲気作りで魔裟斗選手が延長に持ち込むことに成功。
しかし、これまた、2R終了時に2人がドローをつけていたことに首を傾げてしまう。
また、サワー選手のローが効いているのがありありとわかってしまったのが致命的に印象を損ねた。
延長Rはこれまた後で再生して見るに実はむしろキシェンコ選手の有効打のほうが多かった、流れの中では誰の目に見ても魔裟斗選手のペースのように見えてしまって魔裟斗選手の優勝となった。
でも、1ダウンもとらず、2ダウン取られて優勝したからなのか、ジャッジが意図せずに仏心を出してしまったであろうと邪推してしまうとはいえ、魔裟斗選手の精神性の高さや姿勢はこれっぽっちも汚されるべきではなく、立派な優勝だったと思う。
でも、このいつまでも悶々として釈然としないこの気持ちはどこからくるのであろうか…。
トゥクトゥクから