とうとう村上氏が逮捕されたが、その前に開かれた会見は見事なものだった。
村上氏もはじめはやり合おうと思ったのかもしれないが、東京地検が動いた後に起訴されないってことは過去に例が無いわけだし、国家というものはその気になればほとんどの人間を罪人に仕立てあげることができるわけだから、早々に「戦っても無駄」だということを悟ったのであろう。
そして、堀江氏より一枚も二枚も上手を行く村上氏は、彼なりに最もベストな方法でこの場を切り抜けようとしたのだろう。
インサイダー取引で最も重要とされるのは故意であったかそうでなかったかだというふうに考えると、「うっかり聞いてしまっただけなんだけれども、よくよく言われてみれば、プロ中のプロのオイラが聞いた後にやってしまったってことは、やっぱ悪いってことになるんですかな…いやそうっす。ごめんちゃい…」というような感じで、潔く全面降伏をしてみせたこの会見は、情状酌量を量ってもらうためにはベストな会見だったわけだ。
まあ、この会見を受け取る側がどう受け取るかというのはこれとは別の話なんだけど…。
でも、これだけあっさりと認めたら、インサイダー取引に関する処罰が懲役20年とかのアメリカほどに厳格ではない日本のこと、裁判はトントン拍子に進んで、村上氏からすれば痛くもかゆくもない罰金と執行猶予程度で済み、実刑判決にはならないということも十分に考えられる。
ところで、村上ファンドは阪神電鉄に集中投資をしていたが、こういった危ない橋を渡り続ける手法をとり続ければ、勝率がいかに高かろうと、百戦錬磨であろうと、いつか痛い目に会うってことはこの世界ではあたりまえに多いわけだから、「村上氏はいいところで切り抜けたものだ…」と考えることも大いにできるわけである。
それに、もはや村上氏はこういった存在を嫌う日本社会では大胆なことがやり辛くなっていたわけでもあるし…。
村上氏も、 「これまで、自分がどこで歯止めをかけていいのか分からないところもあった。映画を作るのか小説を書くのか慈善事業をするのか決めていないが、人生を見つめ直すいい機会だ」と述べているらしいが、堀江氏ではないけれども、生き急ぎすぎていた彼にとってちょうど良い転機となったのではないかと思う。
それに、この世界から身を引くといっても、裏から操れないわけではないし、日本市場および日本での活動から手を引いたというだけのことかもしれないわけでもある。
…と、このように考えると、村上氏は勝ち逃げをしたともいえるわけである。
まあ、この国の投資家は目立ってカネを儲けないことが肝要なんでしょう。