GOODDAYS 東京仙人生活

ひっそりと静かに生きる47歳仙人のつぶやき

東横イン不正改造で逆に思ったこと(下)

前回のように狭量な意見を述べた裏には、私にもちょっとした苦いエピソードがあるからなのである…。

 

私事ばかりとなります…。

 

実は、私には、「日本には自分が世界各国を旅したときにさんざん世話になったバックパッカー街はないし、バックパッカー宿もあんまりないなあ…あったらおもしろいかもしれないなあ…」と思い、ビルを借りて1泊2,000円以下ぐらいの宿をやろうと考え、本気で開業を試みた時期がある。

 

沖縄や京都にそういった宿が全く無くもないのだが、私が実際に泊まったりして手当たり次第に調べて回ったところ、どうやらそれらは旅館業法の許可営業を取得していないモグリの宿、もしくは、許可を取った後に増改築しているっぽい宿ばかりであった。

とはいえ、モグリの宿とはいってもいい宿も多かったし、別に私はそのことをそこまで悪質とも思わなかった。

 

そして、どうやらきちんと許可を得ていそうなのは、規制が甘い頃に許可を取得したと思われる東京・山谷の「ドヤ」と呼ばれる簡易宿所街ぐらいなもので、また、実際にそこに外国人バックパッカーが泊まっていることが多いのだが、山谷やあいりん地区のようなところにどんどん外国人を招きいれることが日本のイメージを良くすることとは到底思えず、だからこそ、自分でどうにかしたいという思いもあった。

 

役所も「ヴィジット・ジャパン・キャンペーン」などというキャンペーンを打っている割にはそういったところには全く目が届いていないようである…。

 

周りがそうなら自分もモグリでやれば良いといえばそうともいえるのだろうが、そうやってごまかしごまかしで商売をするのはどうしても嫌だったので、私はなんとか許可をもらおうとがんばった。

何十件と物件を確認し、十件以上の物件についてさまざまな役所と折衝をしたが、旅館業法か建築基準法(建築確認申請)か消防法か都の消防条例のどれかで必ず難点が生じて、結局、疲れてしまって開業を断念した。

 

やってみればわかると思うが、多くの資本を投じない限り、よほど運が良くない限り法律に適合する物件を探すのは難しい。

この経験で、日本にああいった安宿がない理由も、小額資金で安宿を始めようとするならばモグリで始めるしかできないことも良くわかった。

 

まあ、自分で「これじゃ建築確認申請で通らないな…」と勝手に思い込んで申請を断念したことも多かったのだが、イーホームズの件で「あんなに審査が甘いとわかっていたらそんなことで早合点して断念することもなかったのに…」とちょっと悔しくも思ってはいる…。

 

とにかくこういったことについて定められた決まりには細かすぎる決まりが多いし、何の意味があるのかわからない決まりも多い。

階段の幅だとか一段の高さだとか蹴上げの幅だとか、トイレや洗面用水栓の数などについていちいち規定してあって、普通のビルを宿泊所用に転用しようとするとどこかで無理が生じることが本当に多かった。

 

文の解釈は役人の裁量になるわけだが、一行の文面の解釈で役人とさんざんにやり合ったこともある。

しかも、その解釈は役所・役人によって違っていた。

また、法律にとある一行があるために断念したということがどれほど多かったことか…。

 

「1客室の広さが7㎡以上必要なんですか?だとか、例えば30人定員だとトイレが7つも必要なんですか?そのようなサービスが必要かについては役所じゃなくて顧客が判断すればいいじゃないですか?ホームページでそれぐらいの情報は開示しますし…」と役人に言い寄ったところで、相手は法律であり条令だから当然ながら意味はないし、茶髪の若者の前例のない相談に「面倒くせー相談するなよなー」といった態度を露骨にする役所もあった。

特に態度が横柄で許せなかったのは神田消防署の署員で、あいつのことだけはあれから2年経った今でもは絶対に許せない。

また、親切な役所も多かったが、役人の頭が固いのはどこかしこもも同じであった。

 

むろん、多額の資金をかけて改装を施せば開業できなくもなかったのだろうが、小額資金で開業して、それでダメだったらすぐに撤退するつもりだったので、結局やめにしたのだ。

 

まあ、京都にあるバックパッカー宿には恐ろしく酷い宿も点在していたし、バンコクのカオサンなんかは違法建築ばかりだから、法でしばったほうが良い面もあることについては十分に理解できるが、必要性の薄そうなことまで細かく定めた規制はモグリの宿を多く生む結果になるし、事業者の自由な発想を奪いやすいように思う。

役人からすればすべて「これらはすべて公共の利益のために必要で、是非とも取り締まる必要がある」ということになるらしいのだが…。

 

ところで、法の網の目を徹底的にかいくぐるための工夫を重ねに重ねて完成した一つの形がカプセルホテルなのだとは開業を模索した人間にとっては容易に想像がつくのだが、あれは、いわば発泡酒第三のビールのような存在なのである。

また、サウナはベッドを用意しないことで、マンガ喫茶はリクライニングをフルフラットにさせないことで法の網の目をかいくぐっているということも容易に想像がつく。

 

とにかく、この件で私は「官と関わる仕事では独立したくないな…」と強く思ったのである。

 

この件と東横インの件で結びつくことはあまりないといえばないのだが、年に2~3回しか使われないような客室の設置を半ば義務づける以外にも、宿泊施設を開業するうえにおいては、官の発想によって高コストを余儀なくされている面があまりに多いということを、私は身にしみて良くわかっているから書かずにはいられなかったのである。