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  世の中の歪みをかいくぐってひたすら逆張りの人生を歩む俺の意見

日本経済と労働政策⑨ 飲食業から見た生産性考察

本シリーズ最終回となるが、今回はおまけの回である。

 

デービッド・アトキンソン氏が指摘するまでもなく、日本の生産性が上がらない理由は、解雇規制が強過ぎることによって産業間の人材の移動が起きず、最低時給が安いことも相まって淘汰されるべき産業がいつまでも淘汰されないことであるが、そういった日本社会と、常にスクラップ&ビルドを繰り返してきたアメリカ社会の業種別の生産性の差を比べるとあまりの差の大きさに愕然とする。

 

日本の宿泊業・飲食業の生産性はアメリカの4割、小売業・卸売業の生産性はアメリカの3割であるが、今回は誰にもわかりやすい飲食業界に視点を当てることとする。

 

報道というのは異常に画一的なので、東京のミシュランの星の数がパリを上回ったと喜んでいるが、パリのレストラン数と東京のレストラン数の母数に触れた記事を見ることはない。

おそらくは東京のレストランのほうが何倍も母数が多いはずである。

 

また、外食産業という産業がドメスティックな産業であることもあって、国際比較をした情報が驚くほどにネット上になく、アジアとヨーロッパの比較資料しか見つからなかったが、こちらによると、アジアは外食回数が多く、ヨーロッパの外食回数は少ないことがわかる。

先進国が多いヨーロッパの42%の人は1回未満しか外食をしない。

しかし、アジアには発展途上国が多いのに月に1回未満しか外食しない人は10%以下である。

もちろん、これは俺の感覚にも当てはまる。

ヨーロッパではレストランというのはハレの日に行くところであり、滅多に行かないところであるというような話は本で何度も読んだことがある。

それに比べてタイ人には自炊をする習慣があまりないのでほとんどが外食だが、こういった国においては外食産業の稼働機会は多くならざるを得ない。

 

客が頻繁に利用するアジアの飲食店には汚くて内装のセンスのない店がやたらと多いが、ほとんどの店が美味くて価格も安い。

そして、そうでなくてはやっていけない。

それに対してハレの日に行くことになっているヨーロッパの飲食店は趣味の良い内装をした店が多いが、美味さはまちまちで、価格が高い店が多く、チップ制度という面倒な仕組みがあり、会計もテーブル会計でやたらと時間がかかる。

しかし、結果としてはヨーロッパの外食産業の生産性のほうが断然高いということになる。

それは、高価格もしくは適正価格で済む水準に市場規模を抑えるメカニズムが働いて過当競争に陥っていないためである。

おそらく、「他にできる仕事がない」という人が多そうなアジアや、「飲食店をやりたいからやる」という人が多い日本に対して、ヨーロッパでは「儲からないことはやらない。儲からないなら他の仕事をする」という真っ当なビジネス感覚が働いているのだろうと思う。

 

それに対して、日本の飲食業界は間違いなく供給過剰なので、いくら安くて美味くても低い生産性から脱却できない。

俺にとっては安くて美味い店が多い日本は最高だが、生産性観点では安ウマは“喝”であり、そういう店の店主は「あなたは奇跡的に無能」「あなたは従業員に払うべき給与を払っていない」とアトキンソン氏に怒られることになる。

アメリカの飲食店が仮に高くて不味かったとしても、アメリカの飲食業界の生産性は日本の2.5倍も高い。

日本のレストランが2,000円稼ぐ時間に、アメリカのレストランは5,000円稼ぐわけであり、生産性観点で見ればアメリカの圧勝である。

 

俺が勝手にアトキンソン氏的な視点でこれを解けば、以下のようになるだろうと想像する。

 

そもそも日本には欧米に比べて、人口当たりのレストランが多すぎる。

生産性の低い飲食業界は適正規模に縮小するべきである。

行政は最低時給を上げてレストランの半分を閉鎖に追い込むべきである。

また、ITによって効率化と自動化を進めて従業員を減らし、料理や内装やサービスの付加価値を高めて、適正な基準まで価格の値上げして生産性を高めるべきである。

そもそも飲食店に働き手が集まらないのは時給が低すぎるからであり、適正規模に上げるべきである。

日本のレストランの店員はアメリカのレストランの店員よりずっと優秀なのにそれに見合った給与と利益を叩き出せないレストランの経営者の無能さは奇跡的ですらある。

  

確かに、生産性が高い産業海外競争力が高い産業に労働力がシフトすれば国の生産性は上がる。

その観点で見れば、思うように働き手が見つからず、高い給料も払えない会社・産業は退場あるのみであり、飲食店業界で働く人には別の産業に移行してもらえば生産性の向上につながる。

働く上での矜持というものについて考えないのであれば、まだまだ労働者の時給を上げられそうな運送業や建設業にシフトしてもらうべきなのだろうと思う。

そうすれば生産性は上がり、アトキンソン氏も納得してくれる。

前回述べた通り、俺個人はデフレ支持の立場だし、俺が飲食店で働いているわけではないので、飲食業界がブラック労働に甘んじようと知ったことではないし、価格が値上げされないほうがずっとうれしい。

しかし、日本食や日本の外食産業の海外進出ぶりと健闘ぶりは光っているし、日本国内よりずっと高めの価格帯で勝負できているので、海外に打って出ればそれなりの生産性を上げられるのかもしれないが、日本国内では超レッドオーシャン業界である。

これは仮定の話だが、もし、どこでもドアがあって、世界中の人が移動を伴うことなく好きなレストランを選べるとしたら日本のレストランは大盛況間違いなしである。

世界35ヵ国で食べ比べたが、そこまでやらなくともそれぐらいのことは簡単にわかるほどに日本の飲食店の質は高い。 

このように、製造業やインターネットでの商売は国際競争をできるのに、店舗でのサービス業はどれほど優れていても輸出できないのが泣き所なのである。

 

しかし、インバウンド需要というのは統計上では輸出に参入されるわけで、そういった文脈では飲食業は有力な輸出産業になっていくのかもしれない。

インバウンドによる観光立国はアトキンソン氏が今後の有望産業として強く推しておられるのだが、先にも述べた通り、飲食業や観光業というのは構造的に極めて生産性の低い業種であり、むしろ衰退するべきともいえる業種である。

しかし、インバウンド需要によって客単価の値上げが可能になり、平日休日の客のバラつきが減り、昼食と夕食の間のアイドルタイムの客数が増えれば過当競争であったはずの飲食店の生産性がぐっと上がるかもしれないわけで、そうなればアトキンソン氏の狙い的中となるが、安ウマ支持の俺としてはちょっと勘弁と思ったりもする。

 

アトキンソン氏の述べるインバウンドによる生産性向上策には値上げ付加価値の上昇が一丁目一番地となる。

また、インバウンド需要の目標は少しでも多くを稼ぐことであり、ここでも「高品質・相応価格」を貫けとおっしゃっている。

例えば、二条城の入場料が600円なのは安すぎで、パンフレットの質・多言語対応端末の充実・ガイドの充実・ベンチの設置・セレブ貸し切り別料金などのセグメント別の入場料設置などといった策を講じて付加価値を上げつつ、客単価を大きく引き上げるべしと強く言っておられるわけである。

この視点で考えると、上野動物園多摩動物公園の600円だとか、東京国立博物館の620円だとか、江戸東京たてもの園の400円といった公共施設の料金は、海外の同様の施設と比べてどう考えても安すぎるということに気づいちゃうわけであり、アトキンソン氏はそういうのは即時止めにして「高品質・相応価格」にして生産性の高い社会を実現していこうとおっしゃっているのである。

俺なんかはこうなると少し世知辛いなあと思っちゃうんだけど、アトキンソン氏が「高品質・相応価格」の例として挙げている入場料1,200円の根津美術館は確かにその料金を払ってでも何度も行ってしまう大好きな場所なんだよな~。 

 

もう一度述べるが、アングロ・サクソンエリートであるアトキンソン氏はインバウンド需要発掘の目的をカネを稼ぐこと一点に焦点を絞り込んでおり、客単価×人数での数字を見ることが重要と唱え、特に高支出層に徹底的にカネを使わせることを強く提案されている。

せっかく来日してくれたのだから少しでも日本に良いイメージを持って帰って欲しいだとか、そんなに裕福でない旅行者にも日本での滞在を少しでも楽しいものにしてもらいたいだとか、是非とも日本のB級グルメも味わってもらいたいだとか、無償でボランティアを行うといった、情緒的かつ金儲けに直接つながらない思考を余計なものとして削ぎ落し、どのようにしておカネを落とさせるかに意識を集中せよと提案されているのである。

課金するべき部分に適切な課金をせず、相手の財布の紐を緩くさせる工夫をしきれていないことに対して「世界の標準とかけ離れている」と述べ、つい情緒的かつ甘い考えを抱きがちな日本人気質に対して、徹底的に生産性向上の観点に立った提案をされているわけである。

日本における「高品質・低価格」商品を批判をしておられるのと全く同じ文脈で論を展開されているわけであり、その首尾一貫したブレのない論理に新鮮な驚きを覚えるのである。

そして、うちのご主人はアトキンソン氏のこのような提案に対し、「余計なお世話」と言ってかなりウザがっている。

また、外国人観光客がお金を落とした瞬間よりも、外国人観光客がすごく楽しそうな表情をして街を歩いている様子を見た瞬間にうれしい気持ちになってしまう俺もまだまだ甘いなあと思い知らされるのである。

 

生産性向上策についてさらに言えば、富裕層を対象に減税および優遇措置をしてアジアの富裕層を呼び込み家事を外注して、弁当作りを止めて、夕食も外食しまくってGDPとして計上しつつ、その分のリソースを得意な仕事に専念して…とやっていけば、分母のGDPがどんどん積みあがるのでもっと生産性が上がるのだが、要はシンガポールや香港のようになれば生産性は増えるということであり、実際にシンガポールや香港はいつの間にか世界の先頭をひた走っているわけである。

でも、シンガポールと香港の最低時給は恐ろしく低いうえ、格差が半端ないんだった…。

 

日本は貿易依存度が高いドイツや韓国と違って内需依存度が高い国なので、内需拡大によって経済成長をすべきだという意見は確かな意見であり、俺も国内の需要が増えないとどうにもならないとこれまで述べてきたが、それでも、もし日本の輸出競争力がもっと高かったらもっと儲かる国になるということは間違いない。

圧倒的に稼げる産業を持つシリコンバレー周辺都市においては、IT産業だけでなく、不動産業界や飲食業界といった域外移転ができない産業の価格までもが高騰してそれらの産業にも稼ぐ力が波及しているし、サムスン電子が韓国の国力を右肩上がりに押し上げ続けてきたように、圧倒的な供給力は域内経済を癒すのである。

逆に、発展途上国において域外移転ができない産業の価格が安いのは域外移転が可能な産業で大きな付加価値を出せていないからでもある。

 

どんなにいいガラケーを作っても儲からないが、いいスマホを作れば儲かるように、グローバル市場での競争下において、圧倒的な供給力を発揮すると莫大な富を得ることができるわけであり、IT分野でイノベーションを起こしてグローバルに爆発的に儲かる産業を作ったカリフォルニア州や、自国の通貨や物価がめちゃくちゃ高くても構わずにガンガン外から稼ぐ力を持つスイスやノルウェーのような国こそ、本当の意味で最強の国や地域であるというあたりまえのことも念のために述べて、本シリーズを終えることとする。