GOODDAYS 東京仙人生活

ひっそりと静かに生きる47歳仙人のつぶやき

リフレ政策の効果と不安について①

 

デフレの何が悪いか

②と③では真面目にリフレ政策の論評をするが、①の今回はお堅い本題に入る前に、今更ではあるが今一度論点を戻してやわらかめに何故にデフレがいけないのかということについて私見を以下に述べておくこととする。

 

社会にとって本質的に望ましいのは、自国通貨高・高可処分所得・高成長・イノベーションなどによる良い意味でのデフレ・低税率・高福祉である。

ただし、これらの全てが両立することは不可能である。

 

上で自国通貨高と述べたが、スイスのように自国通貨が高くても輸出できるほどの付加価値の強い商品を作れる状態、もしくは、自国の通貨が高いために多くの商品を他国からのものに頼ることになりつつも自国の失業率を低く保てる状態がベストなのは言うまでもなく、それがなかなかできない場合に仕方ないので自国通貨安政を取る必要があるというだけの話だが、多くの国は自国通貨安策を取っている。

 

税が低くて高福祉になれば最高だが、石油でも出ない限り不可能な話で、高福祉をとるか低税率を取るかは、ロボティクスが発展でもしない限り、選択および調整の問題となる。

 

物価が上がるインフレより実質購買力の上がるデフレのほうが生活にとってはありがたいし、テクノロジーの進化による生産性の向上や、新興国が安く売ってくれるおかげで安く買えるようになり、そのためにデフレになっている面が強いのだが、とても残念なことにデフレでは経済が成長できない

 

だからこそデフレが悪く言われるわけである。

 

デフレの何が悪いかといえば、お金というのは交換の媒介にすぎないのに、お金そのものの価値が時間とともに減損していくインフレ時とは逆に、時間とともにお金の価値が上がるので、人がお金そのものに執着するようになり、そのためにお金をモノやサービスと交換をすることをしぶるようになることである。

そして、それによってどんどん経済が収縮していくこととなる。

ずっと持っておいたらどんどん価値が摩耗するから使うなり株式に変えてしまわないともったいないと人々が思うようにならないと経済は発展しないのである。

高インフレの国ではどんどん値上がりして、日に日に手持ちのお金の価値がどんどん落ちていくから、お金はババ抜きのババのように扱われてどんどんモノやサービスに交換されていくが、デフレの国ではお金は紙ならぬ神となるわけである。

 

そして、交換の媒介にすぎないお金を貯め込まれて流れないようになってしまうと、動脈硬化のごとく経済が止まってしまう。

しかし、デフレによって思うように売れなくても、人件費を上げなくても従業員に辞められずに済んできたので、企業は多くの利益を計上し、内部留保を積み上げることができ、その結果として、GDPが増えても家計収入は減り続けることとなった。

さらに、家計の収入=可処分所得は年々減る一方、お金の価値が年々増し、将来への不安もあって貯蓄に走る人が多くなったので、家計部門の金融資産も積み上がるばかりとなった。

 

「足るを知る」ことで起こる合成の誤謬 

かくして企業も家庭も金融資産をたくさん持つようになったが、簿記的な発想で考えればわかるとおり、誰かの金融資産は必ず誰かの借金なので、「企業の金融資産と借金」+「家庭の金融資産と借金」+「国の金融資産と借金」+「海外の金融資産と負債」の合計は実はゼロである。

ということは、国の借金がゼロになるには企業と家計の資産がゼロになるか、海外に借金を押しつけるかしかないのだが、この基本原則を元に財政の議論をされていないように感じることがあまりにも多い。

国の借金がすさまじいから企業と家計の資産が多いだけの話で、逆もまたしかりである。

 

本来は、企業が借金や出資をテコに利益を生み出すのが株式会社および資本主義の機能であり、本当はソフトバンクのように借金をテコに成長をしていくのが資本主義システムおいてあるべき企業の姿なのに、日本企業は日本の人口が減ることにとって国内市場が縮小していくのが怖いため、国内には積極的に投資をせず、生き残りをはかるために、内部留保を増やし、海外への進出や海外企業の買収に資金を注ぎこむようになっている。

国内への投資を控えて海外への投資を続けたおかげで日本の海外純資産は堂々の世界1位となったが、これは他国に純負債を押しつけているということでもあり、海外から年に20兆円近くの莫大な配当収入=みかじめ料を受け取る立場になっている。

 

景気が悪い中では被雇用者の不安感が強いため、給与を上げずに内部留保を積み上げるという経営が許されてきたが、景気上昇や高齢化の進展で人不足になればカネはより家計に流れるようになると思う。

引き続き海外に流れるだけかもしれないという心配もあるのだけれど…。

 

このように、日本経済の本当の停滞原因はデフレとそれによる企業と家計の異常な貯蓄志向にあるといえる。

 

貯蓄は家計には良いが、貯蓄されて使われないカネは死に金である。

個々の国民が家計に良いことをし、企業も生き残るために利益を貯め続けた結果、全体の経済が悪化する合成の誤謬が起きてしまっているのである。

 

言い方を変えると、日本人が「足るを知る」生活を送っていることが経済にとって悪い結果をもたらしているのである。

人々が、高金利のノンバンクでお金を借りたり、リボ払いで買ったり、外車をローンで買ったり、成人式のために振袖をこしらえたり、盛大な結婚式をしたり、仕事後に意味もなく飲みに行ったり、レストランで高いワインを飲んだり、映画を家で観ず映画館で観たり、ブランド品を買ったり、インスタ映え消費をしたり、タワマンを35年ローンで買ったりといったことをガンガンしてくれないと経済は発展してくれないのである。

アメリカ経済は世界最強だが、アメリカ人がこういった基本的なことがきちんとできる人たちだからアメリカ経済は強く、その基本ができない日本経済は弱いのである。

なので、日本の人々には身の丈よりも若干上の生活を志向してもらいたいものである。

 

さらにいえば、アメリカのように医療費にバカ金がかかる、もしくは太って生活習慣病を患って病院に行くとかなりの出費が必要になるというぐらいであれば経済およびGDPへの寄与効果はもっともっと高まるのだが、いかんせん日本は国民皆保険だし、保険診療で十分な医療が受けられるので自由診療をあまり受けないし、厚生労働省の押さえつけが強いために品質に対して医療費が低めに抑えられているが、これからは高齢化や高額医療の進展によって医療分野が日本のGDPに大きく寄与するようになると思う。

 

ちなみに、資金循環の考え方で考えると、自国通貨建て国債を国内で消化できている限り、国債の利子は誰かの財布に入っているに過ぎず、高齢者がたんまりと財産を持っていてもそれは子孫か国に召し上げられる運命にあるわけで、そうやって考えると世代間格差の見え方も随分と違って見えるのである。

なお、この考え方に懐疑的な見方をする人は多いが、この考え方で間違いはない。

 

インフレターゲットとは 

話を戻すが、日本経済の本当の停滞原因は合成の誤謬によるものであるが、インフレになればお金の価値が年々低下していくから、人はお金よりもモノやサービスに固執するようになって早め早めに買い、値上げが可能になれば売り上げも利益も増えて給料も増えるので、少しは気分が良くなって使うようになるでしょう、だから人為的にインフレ目標を決めてインフレになるよう手を尽くしましょうよということになる。

そして、これがリフレ政策の目指す「インフレターゲットというものである。

 

経済を着実に成長させていくために、インフレを目標化することによって年々お金の価値を落としていくことで、人々のお金に対する愛情・執着を希薄化させることが効果的であり、したがって、デフレを加味した実質GDPではなく、名目GDPを伸ばしていくことこそが何よりも望ましいと考えるのがリフレ政策の基本的な考え方である。

なお、今の日本は実質GDPは伸び続け、名目GDPは横ばいなのだが、これではいけないのである。

もちろん高インフレはデフレよりも悲劇的な結果を生むので適切な舵取りが求められるが、舵取りを行う政府と中央銀行には大きな権限と責任が伴う。

  

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