リンダ・グラットン氏の「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」は発売されて間もない頃に読んだ。
本書は、平均寿命100歳の「人生100年」時代が到来するから当事者のみなさんはきちんと考えていこうねと啓発している。
確かに先を見ることは大切だし、100歳まで生きるのに65歳で引退したら、22歳から65歳まで働いたとしても100年のうち43年しか仕事をしないことになって57年は働かないことになる。
仮に妻が第一子誕生の32歳まで勤務してその後は専業主婦になると仮定すると、夫婦で200年のうち53年しか働かないことになる。
「人生100年」は、女性参画を促して専業主婦を排したく、かつ、勤労世代にできるだけ長く働いて欲しく、年金支給年齢も引き上げたい行政側としては是非とも利用したいロジックとなる。
そういうわけで政府は、この本が出た後に「人生100年時代構想会議」なるものを設けて、リンダ・グラットン氏も有識者として参画しているようである。
ちなみに政策会議のホームページには「人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行うため、『人生100年時代構想会議』が設置されました。」とあり、どうして人生100年なのかということには触れられていない。
ところで、俺は勝手にではあるが、人は個人差はあれど90歳を超えるあたりから人体の機能が段々と立ち行かなくなるように思えているため、人生100年というのがにわか信じられず、急に気になってこの本の根拠を見返したのだが、本書で「ベストプラクティス平均寿命」と記されたグラフにおいて1840年の45歳から2000年の85歳まで線が一直線で伸びているのだが、どうやら、これがそのまま続くという仮定で著者が勝手にこの先の平均寿命を想定しているようなのである。
本書はKindleで購入しているためページ数を引用できないのだが、「平均寿命110~120歳まで上昇し続け、その後延びが減速すると予想しているのだ。」とある。
そして、この文に続いて後に驚きの一文があるが、それは最後に書く。
本書にはコーホート平均寿命だのピリオド平均寿命だの医学的な見地についてだの色々と書いているが、肝心の「ベストプラクティス平均寿命」というキーワードをググるとこれといって何も出てこない。
それで、「これって信じちゃっていいの?」と思ってしまうのである。
平均身長だってあるところまでは一直線に伸びて、それ以降は変わらなくなっているわけだが、普通に老人を見て平均年齢が120歳になるとかいうのは、どうしてもどうしてもあり得ん話のように思うのである。
で、驚きの一文だが、「もちろん、未来のことは誰にも分らない」と書いている。
これで人生100年だなんて、あまりに言葉だけが独り歩きしているといえないだろうか。
もちろん、少子高齢化に突き進む日本社会では、高齢者と専業主婦を勤労世代に転換させるか、移民を大幅に受け入れるかの二者択一が迫られていて、今は前者にアタックしている政府にとっては渡りに船な定義なわけだけど…。
ちなみにうちの場合、曾祖母は102歳、曾祖父と祖父は94歳で亡くなり、今、祖母は99歳だし、両親はとても元気である。